Research Abstract |
虐待防止を見据えた基礎研究において,子どもが安定して育っていくためには,養育者が応答的で,常に子どもに応答をきちんと返すことの重要性が示されている(Emde et al.,1993)。この能力を情緒応答性と言う。本研究では,この情緒応答性に焦点を当て,養育者は乳児の何を手がかりとして乳児の情動や状況を読み取っているのか,養育者は乳児に対してどのような反応を返しているのか,養育者は乳児の情動認知と乳児への情動表出の間にはどのような情動調整を行っているのかを明らかにする目的で研究を行った。特に,生後直後の乳児に対する母親の応答性を,乳児に社会的微笑が出現する生後4ヵ月まで縦断的に,視線分析によって検討した。 被験者は研究協力の同意が得られた出産直後の母親である。生後2~3日,生後1ヵ月,生後4ヵ月のすべての時期に測定できた被験者は10名である。被験者にEye mark Recorder(Nac)を装着させ,乳児を10分間あやすよう指示した。あやし行動中の被験者の注視点等のデータをSDカードに録画した。10分間の録画を再生し,被験者の視線の対象を測定した。さらに,乳児の微笑時における母親の対応として,乳児への視線,言葉かけ,接触行動の出現率を測定した。 生後直後の乳児の母親の注視は,ほとんどが乳児の顔に向けられており,生後1ヵ月,4ヵ月にはさらに増加した・乳児の発達にともなう母親の乳児の顔への視線の変化について有意差がみられ仮複測定分散分析),Scheffeの多重比較の結果,生後1ヵ月と生後4ヵ月との間で有意差が見られた。また,乳児の微笑に対する母親の応答行動(乳児の顔への視線,乳児への言葉かけ,接触行動)について検討した結果,乳児が4ヵ月になると,母親の接触行動が有意に増加し,応答性が一層よくなることが明らかになった。生理的微笑と社会的微笑時の母親の対応が異なるため,母親の乳児に対する応答性が乏しい生後3カ月までの母親へのサポート漆重要と考えられる。
|