2010 Fiscal Year Annual Research Report
木造建造物の保存修復における伝統技法の類型と革新的技術の考案に関する研究
Project/Area Number |
21500986
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
上野 勝久 東京芸術大学, 大学院・美術研究科, 教授 (20176613)
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Keywords | 文化財 / 木造建造物 / 保存 / 修理・修復 / 伝統技法 / 革新的技術 |
Research Abstract |
我が国の文化財建造物の保存修理は、世界的に最高度の水準の技術や技法が用いられている。本研究では、これまでの概括的な先行研究や個別研究に成果を踏まえ、近年の動向や現況に鑑み、保存修理における実態からその種類と用法、有効性や耐久性及び信頼性に関する具体的な分析を行い、改めて総合的に把握することを目的としている。本年度は研究の基礎を構築するため、これまでの研究論文や文献資料、特に文化財建造物の保存修理工事報告書等を精査し、今日までに導入された様々な技術や技法を出来る限り網羅的に把握した。 着目点は、(1)当初部材の保存と再用の技法・技術、(2)木造の構造補強と耐震性能向上の技法・技術である。本年度は昨年に引き続いて事例の収集につとめた。視点の(1)と(2)、さらに(1)と(2)が共存するものも含め、事例を増やした。昨年度は現地調査として、国宝・瑞巌寺本堂の保存修理現場からの知見を得たが,本年度も近世初期の大規模客殿型本堂にみる伝統技法を調査した。今年度はさらに具体的事例として、高野山金剛三昧院の客殿及び台所、大阪の金剛寺本堂、栃木の鑁阿寺本堂、長野の諏訪大社下社神楽殿などの修理現場を通じて、中世・近世の大規模建築の伝統技法や修復の最新技術などの知見を得た。軸部の構造補強、折損部材への対処、小屋組の強化、接合部位の補強など、本研究に必要な様々な技法や技術を得ることができ、今後も研究対象を増やしていく予定である。 最終にあたる次年度は、この2箇年で収集した多様な事例を類型化するとともに、各々についての文化財価値の持続という視点からの総合的な評価を行う。その上で、東北関東大震災による文化財建造物の被災状況と対応させながら、研究報告書を刊行する予定である。 本研究の成果としては、受託研究に連動させて調査報告書の一部で発表した。また資料収集に協力した博士課程の学生の博士論文の一部として、日本建築学会の査読論文として発表させたものもある。
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