2009 Fiscal Year Annual Research Report
絵画に生じた結晶様物質に関する研究-顔料と媒剤の関連性および修復処置について-
Project/Area Number |
21500987
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
鈴鴨 富士子 Tokyo National University of Fine Arts and Music, 大学院・美術研究科, 教育研究助手 (60532497)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋山 純子 東京芸術大学, 大学院・美術研究科, 教育研究助手 (10532484)
藏品 真理 (栗原 真理) 東京芸術大学, 大学院・美術研究科, 教育研究助手 (40532479)
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Keywords | 絵画 / 結晶 / 顔料と媒剤 / 保存環境 / 修復処置 |
Research Abstract |
油画作品の絵具層の損傷例の一つに劣化生成物と思われる結晶様物質の生成がある。これまで油画作品に生じた結晶様物質に関する事例が報告されているが、生成過程の解明および修復処置の研究には至っていない。生成過程を解明することで、材料の有する特徴や保存環境の影響が明らかとなり、これは保存環境を最適化する上で重要である。近年では油絵具を用いた油画作品の他、アクリル絵具による作品も多くみられ、制作材料は多様化していることから、本研究では油画修復の他、アクリル絵画等の作品も対象に検証する。本研究は日本特有の環境下における保存性を提示し、更には適切な修復処置を考察することを目的とする。 上記目的に基づき、平成21年度は過去の修復記録や油画10点、アクリル絵画1点、油絵具、アクリル絵具混合絵画1点の調査を実施したところ使用材料により生成の度合いや形状が異なることが確認された。また、採取した生成物の分析を、走査型分析電子顕微鏡(SEM-EDX)分析、FTIR分析、TLC呈色法分析、X線回折、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)、高速液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)により行った。その結果、アクリル絵画に発生した生成物はケトン基を持つ有機化合物と推定され、油画作品に発生した生成物からはZn、Ca、Si、Al、S、Pが確認された。 また、使用する顔料や媒剤による劣化挙動の相違を調べるため、湿熱劣化実験を行い、媒剤と顔料の関連性および結晶様物質の生成過程について検証した。平成21年度は市販の油絵具(1社)、アクリル絵具(4社)の絵具を用いて湿熱劣化実験(70℃、RH90%)を行った。その結果、油絵具の試料ではプルシャンブルー、ウルトラマリンディープ、チャイニーズレッド、バーントシェンナなどで生成が確認された。アクリル絵具の試料は、チャペルローズ、パーマネントレッド、バーントシェンナ、コバルトブルー、スカイブルー、ブライトグリーンなどで生成が確認された。生成物が確認された絵具は青色や赤色に多く生成するなどの傾向が見られるが、メーカーより度合いが異なることから、添加剤の影響も考えられる。今後は更に作品調査を実施すると共に、様々な条件下での劣化実験を行うことで、生成過程の解明および修復処置について検証していく。
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