Research Abstract |
近年,バクテリアの群集構造を解析することで,環境の変化を総合的に捉えるバイオモニタリングが注目を集めている。そこで我々は,海洋環境中のバクテリアの群集構造を把握するために,平成21年から継続して,富山湾沿岸域の表層海水(Om)と海洋深層水(約320m)中のバクテリア群集構造の季節変動の解析や主要な種の同定を行った。 まず,漁港6定点と沖合10定点で採集した表層海水試料をDGGEにかけ,クラスター解析した結果,採水時期によらず,河口域を除く全地点で60%以上の類似度を示したことから,富山湾沿岸域の表層海水は比較的均一であると考えられた。一方で,神通川沖合や黒部港などの河口域では,ほとんどの月で他の定点とは異なったクラスターを形成したことから,表層海水中のバクテリア群集構造は,河川の影響を受けて変化しやすいことが考えられた。次に,沖合2定点で得た1年間の試料をDGGEにかけ,クラスター解析した結果,どちらの定点でも年間を通して50%以上の類似度を示す一方で,隣接する月でクラスターを形成した。この結果から,表層海水中のバクテリア群集構造は年間を通して比較的安定していながらも緩やかに季節変動していることが推察された。また,DGGBゲル中の特徴的なバンドをシークエンス解析した結果,Proteobacteriaに属する種がほぼ1年中見られ,夏から冬にかけてCyanobacteriaに属する種が検出され,河口沖合では淡水に多いとされるFlavobacteriaに属する種が多く検出される傾向が見られた。最後に,深層水中のバクテリアの群集構造を解析した結果,表層とは異なった特有の群集構造を示しながらも年間を通して非常に安定しており,採水定点による大きな違いも見られず,約80%の類似度が示された。また,主要な種として,表層水中では見られなかった硫黄酸化細菌の存在も示された。これらの研究結果が,富山湾の海洋環境の変化をモニタリングする上での重要な基礎データになるものと思われた。
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