2009 Fiscal Year Annual Research Report
株式市場における取引符号の長期記憶性についての実証と確率モデルの研究
Project/Area Number |
21510146
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
村井 浄信 Okayama University, 大学院・社会文化科学研究科, 准教授 (00294447)
|
Keywords | 非整数ブラウン運動 / Hurst指数 / 取引符号 / 長期記憶 |
Research Abstract |
この研究の背景および得られた結果は以下の通り。株価収益率の時系列データは記憶をもたない、すなわち、その自己相関関数がすべてのラグについて0に近い値であることが古典的に知られており、効率的市場仮説を支える実証結果のひとつとなっている。近年、イギリスおよびフランスの金融市場における高頻度データの分析によって、取引符号(連続オークション型市場において、買い注文による取引にはプラスの符号、売り注文による取引にはマイナスの符号を与える)の時系列データは長期記憶を持つことが報告された。我々は日本の株式市場の高頻度データの分析を行い、海外市場と同様に取引符号が長期記憶を持つことを確かめた。取引符号が長期記憶をもつ理由として、機関投資家などが取引コストを抑制するために大口の注文を小口に分けて発注する投資行動の存在が指摘されている。我々は潜在的な注文を分割して発注する個々の投資家の行動が取引符号の長期記憶を引き起こす理論モデルを構築した。投資家が注文を一度にすべて出すときのウエイトをd_n=cn^{1-\alpha}、2度(時刻t_1と時刻t_2)に分けて出すときのウエイトをd_n^2(t_2-t_1})^{-\alpha}とし、W_tを時刻tまでのすべての投資家による取引符号の総和を表す離散時間の確率過程とする。統計力学のクラスター展開の手法を用いることで、0<\alpha<1のとき、W_tのスケール極限が標準ブラウン運動と(長期記憶の理論モデルとして知られている)非整数ブラウン運動の和であることを示すことができた。得られた非整数ブラウン運動のパースト指数はH=(2-\alpha)/2である。以上の結果は、学術論文に発表された。
|