Research Abstract |
本研究では,橋梁やトンネル,電力設備などのインフラストラクチャの温度,応力,塩分濃度など,システムの安全を特徴づける物理・化学量をリモートで多点計測するために,無電源ワイヤレスセンサー((PW(passive wireless)センサー)を開発している.平成23年度は下記の研究を実施した. PWセンサーはリーダーから放射された電磁波を受信し,アンテナ端部に生じた電圧を整流・増幅してセンサー部分を起動させるために十分な直流電圧を得る必要がある.このとき,もし整流・増幅回路が線形回路であるならば,テブナンの等価回路を用いて,アンテナの受信開放電圧から直ちにセンサー部に供給する直流電圧を計算することができる.しかしこれらの回路は非線形回路であるため,アンテナ・電磁波と非線形回路の電磁的結合を考慮して計算を実行しなければならない.このような解析には時間領域差分法(FDTD(Finite Difference Time Domain)法)が有効であるが,UHF帯域の電磁波の周波数の約1GHzのタイムスケールに比べて,回路の時定数が非常に長いため,定常状態の電圧を得るためには膨大な計算回数が必要であった.そこで,回路の時定数を実効的に短縮する時間周期陽的誤差補正法(TP-EEC法 : Time Periodic Explicit Error Correction法)をこの系に適用することにより,大幅な解析時間の短縮を可能とした.この成果はIEEE Transactions on Antennas and Propagationに論文"Accelerated FDTD Analysis of Antennas Loaded by Electric Circuits"として掲載された.また申請者らは,TP-EEC法が計算時間短縮に有効である理由を数理的立場から解明した.この成果はIEEE Transactions on Magneticsに論文""として掲載された. PWセンサーを電力設備等の表面に設置する場合,それら設備の金属表面からの電磁波の反射があるため,その影響を受けないようなPWセンサー用アンテナの設計が必要となる.このために,反射の影響がほとんどないパッチアンテナを考え,その形状をPWセンサーの出力電圧が最大となるように最適設計した. また,PWセンサーの受信距離を伸ばすために,PWセンサー回路に供給する電圧を最大化するための共振回路が必要となる.このためにスタブを導入することを考え,すでに開発してあるコッククロフト・ウォルトン型の電圧倍増回路と極低消費電力コンパレータおよびアンテナ系にスタブをつけた場合の通信距離可能距離の評価を行った.これにより,高出力のRFID(4W EIRP)の場合10m程度の通信距離を実現できることがわかった.しかし屋外で使用できる中出力のRFIDの場合,2m程度の通信距離にとどまるため,実利用のためにさらなる研究が必要である.
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