2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21510254
|
Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
高橋 和 山形大学, 人文学部, 教授 (50238094)
|
Keywords | ユーロリージョン / 移民政策 / 越境地域協力 / シェンゲン条約 / EU / INTERREG / 近隣諸国政策 / 労働移動 |
Research Abstract |
本研究は、EUの越境地域協力(CBC)の制度化の進展のなかで、EUの域内外に跨がる地域におけるヒトの移動に関する制度がどのように確立されるかを明かにすることを目的としている。越境地域協力、とりわけミクロレベルの協力(Cross-border Cooperation)、およびその実施主体であるユーロリージョンは、ヨーロッパ統合と軌を一にして進展し、EU域内外に跨がる地域においてもヒトの移動を活発化させてきた。一方、ヒトの移動の流動化は「自由・安全・正義」の領域の確立をめざすEUの政策、とりわけシェンゲン条約における国境管理を強化することになり、EUは矛盾した政策を同時進行させることになった。 こうした状況を踏まえて、平成22年度はシェンゲン条約が強化される背景を明らかにし、シェンゲン条約の国境管理が東方からの不法「移民」に向けられていること、CBCについては例外措置を設けて短距離の移動については緩和する対策が取られていることを明かにした。平成23年度は、EUの南部地域、すなわち地中海を媒介としてスペイン、イタリアへのアフリカからのヒトの移動の活発化とEUの側のFRONTEXによる強制的な排除という対応によって、アラブ諸国からトルコを経由して旧東欧諸国への不法移民が増加し、そのためにEU東部における越境地域協力への国家の介入が強化されている状況を明かにした。これら研究の成果は、EU統合のためのツールとして導入された越境地域協力が、短距離のヒトの移動という日常的な移動が長距離のヒトの移動という非日常的な動きに翻弄されている状態を明かにしたという点にあり、他方で不法「移民」を含めてEUの域外からの移動に対してEUのFRONTEXを通じた強硬な排除手段の行使は、CBCで積み重ねてきた域外地域との信頼関係を切り崩す危険性を孕むものである。したがって、EUは国境管理においても排除の論理ではなく、域外地域のステークホルダーを取り込んだ国境管理制度の構築が必要となって来るであろう。
|