2011 Fiscal Year Annual Research Report
性教育・エイズ教育に携わる専門職の性意識に関する質的研究
Project/Area Number |
21510296
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
松原 弘子 大阪経済法科大学, アジア太平洋研究センター, 研究員 (40465654)
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Keywords | 性教育 / ジェンダー / セクシュアリティ / 性感染症予防 / 性意識 / 性行動 |
Research Abstract |
本研究の目的は、職業上HIV/AIDS予防啓発教育(性教育等)を担っている医師、保健師、教師などの専門職が、教育に携わる中で、自身の性行動に関連する規範意識や価値観(以下、性意識)と伝えるべき性意識との葛藤と克服のプロセスをたどっている可能性があることを仮説とし、この葛藤と克服のプロセスを明らかにすることで、性行動に関連する教育を担う人材を育成する際に必要な新たな知見を得ることであった。この目的のもとに実施した予備調査(初年度)の結果から、M-GTAによる概念生成よりも先に、対象の個性を詳細に把握する個性記述によって、対象に接近する必要があると判断された。そこで、分析方法をM-GTAからナラティブアプローチに変更し、より深いインタビューを行うため、調査のガイドラインを変更した。また、1983年以降に国内で発表された、性教育をタイトルに含む論文397編のシステマティックレビューを行い、性教育の研究動向を把握するとともに、性教育実施者を対象にした研究が少なく、質的研究においては、事例報告以上の論文がほぼないことを確認した。二年度には、変更後の条件を満たす協力者を募り、23名から承諾を得て19名にインタビューを実施した(医師2名、行政関係4名うち保健師1名、養護教諭8名、専門職養成者2名、教師2名、NGOワーカー1名)。このインタビュー分析から、次の結果が得られた。1)熱心に性教育等に取り組んできた専門職においては、性意識の葛藤と克服は意識化されていなかった。2)性教育等に対する熱心さは、対象となる児童・生徒や住民ニーズに応えようとする職業的な責任感を軸として、身近に尊敬できるロールモデルがいた、新しいことに取り組んだり学んだりできる環境(職場内、職場外)が整っていた、予算がついた、などの条件が加わっていた。3)個人の思想信条が性教育等に影響を与えていた事例は少なかった。4)性教育実施時の性意識のありようは、職業的専門性よりジェンダー差が影響している可能性が示唆された。以上のことから、研究開始時に想定していた仮説は棄却されたが、性教育等の実践者育成においては興味深い研究結果が得られた。
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