2011 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀英国における、哲学の基礎論としての人間本性論における情念の役割の解明
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21520018
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
石川 徹 香川大学, 教育学部, 教授 (30212848)
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Keywords | ヒューム / 情念論 / 因果論 / 人間本性論 / トマス・リード / 行為論 / 自由意志 / 自然主義 |
Research Abstract |
2011年はヒューム生誕三百年にあたり、『人間本性論』第二巻の翻訳出版と関西哲学会におけるシンポジウム発表を要請されたので,最終年度にヒューム哲学を中心に行う予定であったま.とめの一部を先行させ、ヒューム哲学における情念論の持つ哲学的な意義を明らかにすることに務めた。その際の中心的なアイデアはヒュームの人間本性論が観念説によって、人間の精神の働きを因果的に説明することであるというものである。ヒュームはその構想に沿って、人間の持つ情念とりわけ対人格的な社会的情念である間接情念の解明を進めていくが、その際人間の情念の動きという現象をごまかすことなく取り上げているために、理論的な整合性が損なわれているように見える。このことをヒューム哲学の欠陥と見なすこともできるが、むしろそこにこそ、ヒューム哲学の可能性を見ることもできる。そして,それに関連して、トマス・リードの因果論批判の中心が結局において、人間の行為をどのようなものとしてみるか、すなわち人間を自由な主体としてみるか、因果関係の総体としてみるかと言う問題であるのを見いだしたのを受けて、ヒュームの情念論の基盤となる人間観が後者であり、18世紀における英国哲学の情念についての根本的な対立点が人間の自由な行為と言う概念をどう理解するかにあることが明らかにできた。また,この観点からすれば、ヒュームの理論は、理性と情念の行為における因果的役割を分離して持ち込んでいるという点で、不徹底であり、より現代的な自然主義的哲学の可能性をヒュームの哲学がその前提に秘めているということを指摘することができた。以上の成果は、研究テーマが当初予想きれた、道徳思想への関わりだけでなく、認識論をも含む広範な哲学的問題全般に関係し、近世哲学全体の見直しに通じるものであることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画に挙げた四つの対象のうち、道徳感覚論者であるハチスンの検討が遅れている。彼の哲学の中からまだはっきりとした情念に対する理論的な根拠が明確になっていない。さらにより哲学史的な研究が必要である。その点を除けば、おおむね順調であり、情念論の哲学的意義は明らかになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、ヒュームを中心にテーマのまとめを行う。理論的意義に関しては、計画を少し前倒した分かなり明らかになっているが、哲学史的な裏付けに関してはまだ弱い部分があるので、その点を補強しつつ完成年度としてしての研究をまとめるつもりである。
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