2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520031
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
清水 真木 Meiji University, 商学部, 准教授 (50314711)
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Keywords | 哲学 / 倫理学 / 尊敬 / 公共性 / 他者 / 教養 |
Research Abstract |
今年度は、「尊敬と公共性」というテーマについて、以下の3つの観点から研究を遂行した。 「尊敬」は近代に固有の感情であり、ストア派に代表される古代の感情論の文脈の内部において、尊敬はいかなる位置も占めてはいない。尊敬をめぐる哲学的な言説が初めて登場するのは近世になってからであり、その典型はカントに求められるのが普通である。そこで、(a)『人倫の形而上学』『実践理性批判』などのテクストを手がかりにして、「尊敬」をめぐるカントの見解を整理することを試みた。18世紀の英語圏、ヒュームやアダム・スミスにおける尊敬をめぐる評価と対比することにより、尊敬における「道徳法則」の役割を強調するカントの見解と具体的なコミュニケーションにおける尊敬の機能とのあいだの関係(あるいは関係の不在)を確認した。これは、カントが尊敬というものに与えた存在論的な位置というものを明らかにする手がかりとなるものであるように思われる。 とはいえ、カントの尊敬理解は、尊敬の概念史の内部ではむしろ孤立したものであり、尊敬とは何かという問に答える試みに共通の枠組を与えるものとは考えられてこなかった。そこで、(b)カント以前に、ストア派の感情論の復権として姿を現した感情論の、特にデカルトの『情念論』を中心にして、尊敬論の「古層」を明らかにすることを試みた。そして、この「古層」において問題になっていたものが、「私」の意のままにならない不透明な他者の存在であり、これがすべてに先立つものであることを明らかにした。 なお、(c)公共性の輪廓を明らかにするという課題の一部として、近代に固有の概念としての「教養」概念の歴史と変質を公共圏の機能との関係において確認する作業にも携わり、市民的公共性と教養が一体のものであることを解明した。
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