2011 Fiscal Year Annual Research Report
理性的・社会的動物にかんするヒューム的観点からの研究
Project/Area Number |
21520036
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊勢 俊彦 立命館大学, 文学部, 教授 (60201919)
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Keywords | 動物論 / ヒューム / 理性 / 不確実性 |
Research Abstract |
本研究は、人間の理性と社会性が他の動物と共通の認知機能を基盤とすることを認めた上で、その独自の特性とその生成を、どのように性格づけ、その要因を何に求めるべきかという問題を、ヒュームの議論に照らして検討し解明することを主要目的とする。ヒュームは、人間と動物の精神の働きが共通の原理にもとづくと主張すると同時に、その共通原理の具体的説明を提示した。その共通原理は、因果推論と並んで、社会的情念およびその生成において重要な役割を果たす共感を含む。この論点を踏まえ、最初に掲げた問題について、ヒュームの議論から引き出される見通し、ヒュームの議論の、人間と動物の関係についての哲学的議論の歴史的展開における位置、現代の哲学的議論と科学的知見の到達点に照らしたさいの意義を明らかにすることを具体的には追求してきた。 本年度は、これまでの研究で得られた知見の意義を整理し、次の段階の課題を明確にすることを目標とし、とりわけ、人間が生きているものとして他の動物と共有する身体的制約と、行動を合理的に計画することの限界、避けられない偶然と不確実性を前に、なおも探究を続けるというヒュームの哲学を動機づけるもの確認し、われわれの社会が直面する課題との関連性を明らかにすることを目指した。 ヒューム生誕300年にあたる記念の年ということもあり、複数の学会の企画において発表の機会を得た。とりわけ、関西哲学会の課題研究発表(シンポジウム)では、理性使用の具体的状況がはらむ偶然と不確実性、その中での推理や判断がはらむ賭けの要素を、人間以外の動物との連続性、人間に特有の社会的行動や哲学的自己理解とのそれぞれに即して明らかにすることができた。また、『倫理学研究』に掲載された論文においては、哲学史的展望に立って今日の人間-動物関係への視点を提供するとともに、ヒュームの議論の歴史的位置づけと今日的意義を確認することができた。 本研究の成果を発信するという点では、これまでの成果をまとめる冊子を作成し、未公刊であった口頭発表論文の内容を公開する機会を得た。
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