2011 Fiscal Year Annual Research Report
生命倫理学における安楽死・尊厳死論のキリスト的基盤に関する歴史的社会的研究
Project/Area Number |
21520038
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大谷 いづみ 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (30454507)
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Keywords | 安楽死 / 尊厳死 / 生命倫理 / キリスト教 / 臓器移植 / カズオ・イシグロ / クローン / デス=エデュケーション |
Research Abstract |
本研究は、とりわけ、生命倫理学黎明期に活躍したキリスト教神学者、ジョセフ・フレッチャー(Fletcher, Joseph, 1905-1991)の叙述に着目して、生命倫理学における「安楽死・尊厳死」論とキリスト教との関連性を歴史的・社会的に解析する企てである。 研究3年目にあたる平成23年度は、フレッチャーの著作の網羅的な蒐集・整理をさらにすすめ、その活動の分析を継続しながら、生命倫理問題を遠近で扱った小説や映画作品にキリスト教の有形無形の痕跡をさぐった。特に、平成23年春、日系の英国ブッカー賞受賞作家、カズオ・イシグロの小説「私を話さないで』の映画化作品が日本でも公開されたことに機会を得、上記2作品を中心に臓器移植を扱った作品群をとりあげて臓器移植と安楽死・尊厳死問題との関係を解析した。 上記の研究活動の中で、臓器移植が助かるべきいのちと死を期待されるいのちに人を二分するものであることを明らかにするとともに、経済的社会的に追い詰められて臓器提供を強いられる状況下においてさえ、自己犠牲によって自らの「生」の承認を求めようとする心性があることを指摘した。 上記の研究の具体的な成果として、研究論文、初等教育管理者向けの小論ほかを公刊し、福祉関係者やNPOへの教育講演を行った。学問的成果を学術論文として発信するとともに、教育者、福祉関係者、NPOへの刊行物や教育講演によって、本研究の成果をより広くより広汎な対象に公開することができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画を若干軌道修正した点はあるが、本研究の目的を同時代の社会状況に照らしてより発展的に修正したものであり、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である平成24年度は、これまで3年間で得た知見をもとに、生命倫理学における「安楽死・尊厳死」論とキリスト教との関連性をまとめる。特に、J.フレッチャーの思想・行動と移植医療との関係、J.フレッチャーの思想・行動とデス=エデュケーションとの関係を検討してまとめ、次期科研への発展的布石としたい。
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