2010 Fiscal Year Annual Research Report
岩下壮一と綱脇龍妙にみる救癩思想の比較宗教学的研究
Project/Area Number |
21520074
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
輪倉 一広 福井県立大学, 看護福祉学部, 准教授 (10342122)
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Keywords | 救癩 / ハンセン病 / 岩下壮一 / 綱脇龍妙 / カトリック / 日蓮宗 / 思想史 |
Research Abstract |
22年度に予定したおもな取り組みは下記の3点であった。 1.元入所者からの聞き取り 2.深敬園関係史料の補助調査 3.公刊資料・文献の分析 まず1の点については、とくに綱脇龍妙が救癩活動を展開した深敬園の元入所患者を現在の国立療養所の患者自治会を通じて照会したが、年度内に回答が得られなかった。したがって、今年度は改めて調査依頼し、聞き取りを実施したい。次に2点目については、すでに深敬園史料を調査したK氏に予定通り相談し、一部であったが資料提供の協力を得ることができた。また、岩下壮一が救癩活動を展開した神山復生病院と同じカトリックの救癩施設として現存する待労院を訪問し、施設資料(2次資料)の提示を受けた。最後に3点目については、まだ一部ではあるが、すでに入手した資料・文献の分析を進めた。 これらの取り組みの成果として、日本宗教学会で口頭発表「岩下壮一と綱脇龍妙にみる宗教救癩事業の意義」を行い、また、それに基づく論文「ふたりの宗教家にみる功徳の転換性の様相-救癩事業をめぐる比較思想史的考察」を執筆・発表した。この論文における切り口は、〈功徳の転換性〉というカトリシズムの教理であり、また大乗仏教における〈廻向〉の教理でもある考え方で、実践者の善業が利他的な目的で他の善果へと移しかえられるとするものである。岩下と綱脇のそれぞれの救癩実践を、それぞれよって立つ宗教の違いによって〈功徳の転換〉がどのようになされたのかを考察した。これまで、とりわけ救癩史研究においてこのような視点からの比較研究はなされておらず、宗教救癩事業家の実践思想の違いを知る上で貴重な研究となった。こうした転換は、戦前の宗教教団の置かれた状況や国民国家との関係を当然に意識してなされたものであり、分析結果では岩下と綱脇のどちらにもそうした色合いが濃厚に表れていた。
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Research Products
(2 results)