2011 Fiscal Year Annual Research Report
コンディヤックとボネを通して見る感覚論哲学とその記号論
Project/Area Number |
21520080
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
飯野 和夫 名古屋大学, 大学院・国際言語文化研究科, 教授 (30212715)
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Keywords | 感覚論 / コンディヤック / ボネ / デリダ / 記号 / 欲求 / 地下文書 / 世界形成論 |
Research Abstract |
本研究の目的は、(1)コンディヤックとボネという二人の代表的感覚論者の思想を比較検討し、感覚論哲学の総合的研究の第一歩とすることであり、また、(2)感覚論哲学を現代の観点から捉え返し、その現代的意義を探ることである。 当該の2011年(平成23年)度には、まず(1)に関係して、コンディヤックらの狭義の感覚論哲学と親和的な性格を持つ啓蒙時代の著作であり、匿名で手写本の形で発表された『世界形成論』についての研究をまとめた。報告者はこの著作を日本語に翻訳した上で、著作の解題を付し、『啓蒙の地下文書 II』の一部として2011年6月に法政大学出版局から刊行した。 コンディヤックとボネの感覚論哲学の研究それ自体としては、まず論文「コンディヤックの動的人間観--欲求の理論とその展開--を発表した(名古屋大学大学院国際言語文化研究科『言語文化論集』第XXXIII巻第2号、2012年3月)。この論文においては、デリダも参考にしつつ、コンディヤックが『感覚論』、『動物論』などの著作において、人間の精神活動の極めて動的な理解に到達していたことを示した。また、発表は2012年度になるが、論文「コンディヤックの知性理論の展開」の執筆を進めた。この論文においては、まず、コンディヤックの『人間知識起源論』における、人間知性の発展や記号の役割などにかかわる論述を分析した。さらに、コンディヤックが一度テキストを書き上げた後に、その内容を「組み換え」ようとした経緯を、現代思想における「事後性(事後修正)」の概念も参照して論じた。 また、2011年度には、フランス国内とロンドン、ジュネーヴで調査研究を行った。まず、上にふれたコンディヤックの思考の組み換えに関連して、『人間知識起源論』の版による内容の異同を各地の図書館の蔵書を閲覧して調査した。また、ジュネーヴではボネの草稿類の調査も行った。ボネについての調査の結果は、「ボネの『自伝』に見るコンディヤックとの関係について」という論文として執筆を始めた。 上記の(2)の課題は、(1)に関係してふれた二論文の中で併せて追求した。たとえば現代フランスの代表的哲学者デリダは、コンディヤックの哲学を論じる際、現代思想における記号、目的論、「事後性」などについての理解に立脚している。報告者は論文中でこの事情を指摘し、現代思想の諸概念と適合するコンディヤック思想の斬新さ、現代性を指摘した。
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