2010 Fiscal Year Annual Research Report
日本における言語実践の通世代的伝達に関する精神分析的研究-文字と語らいの諸相
Project/Area Number |
21520081
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新宮 一成 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (20144404)
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Keywords | 精神分析 / 阿闍世 / 折口信夫 / 民俗学 / 内田百間 / 中村古峡 / 精神療法 / リチュラテール |
Research Abstract |
平成22年度は、エディプスや阿闍世という例に代表される神話的な領域の言語実践が、口承と文字とを交えつつ世代間伝達されるありさまを、民俗学や文学の領域において確認し、理論化することが課題であった。この目標に向けて、まず折口民俗学の方法論的構想の明確化と、実際にそれが当てはめられた民俗的事象についての解析を試みた。この領域では、折口信夫の採った方法論的意識の特徴を構造論的なものであると理解し、民俗は、言語実践における内と外の構造的関係を保存する伝承であるという見解を示し、精神分析における構造論的視座を取り入れて論文化へと進めた。そして、折口がこうした構想を抽出した基礎となった民俗的事象の中から、愛知県の花祭りを選び、研究協力者による3日間の採訪を行った。その結果の報告を検討しつつ、折口の構想と通底する構造論的精神分析の重要論文であるラカンの「リチュラテール」について研究代表者と研究協力者の間で認識の共有を行った。また、日本文学においては西洋文明の流入によりそのままの形では伝達されにくくなった近世までの文化的実践をどのように伝承するかが当時の人々の課題であり、この課題に文学者がどのように対処していったのかをとくに精神障害との関連において、内田百間や中村古峡などの独特のスタイルを有する文学者について研究し、論文化した。また、江戸後期の大震災を伝承していくにあたって、人々はどのような言語実践を編み出したかを、精神分析の構造論の立場から、民衆の集団的な通世代的伝達の一つとして明らかにして論文化した。集団的に共有された象徴構造が一人一人の語りにおいて「生と死」をめぐり効力を発揮する条件について、精神療法という実践の場の構造を考究して論文執筆と学会発表を行った。
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Research Products
(8 results)