2011 Fiscal Year Annual Research Report
日本における言語実践の通世代的伝達に関する精神分析的研究 ―文字と語らいの諸相
Project/Area Number |
21520081
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新宮 一成 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (20144404)
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Keywords | 精神分析 / 阿闍世 / 折口信夫 / 民俗学 / 三島由紀夫 / 対象喪失 / リチュラテール / 言語 |
Research Abstract |
本年度の研究実施計画は、これまでに学会誌に掲載または掲載予定となった諸論文を総合的に組み合わせて、言語活動の通世代的伝達に関する理論を、折口信夫の思想を参照項として組み立てることであった。 これに関して、世代と世代との間の心的な伝承を、あの世とこの世との間の繋がりの形成として捉え、人々がこうした繋がりをどのような心的過程を根拠として構築し、どのようにして維持してきたかを考察した。言語が空にあり、人が地にあるという無意識的な観念を抽出することによって、あの世からこの世への伝達が、言語を通じて行われることの心的な根拠がこの無意識的な観念にあるという理論を掲げて英文で論文化した。 民俗学的事象においても、あの世という外部からこの世に向けて意志が伝えられるという観念が、鬼の訪れ等の具体的な姿をとって保存されている地域があり、研究協力者の一人によるその地域への採訪旅行の映像と音声の記録を基にして、研究代表者と研究協力者、そして日本中世の歴史を専門とする講演者が議論し、研究協力者がその結果をまとめて学会誌において論文化した。 これらの論文を中心として、世代間伝達に関わる精神療法的な営みについての考察を行った。まず伝統的に伝えられている象徴作用が精神療法においてどのように働いているかを巡る構造論的な考察、そして死者と生者の関係が親と子の間の両価的情動によって作られるという臨床的観察、さらに宗教的観念が世代を超えて伝えられることの根拠を巡る考察を行った。また文学の領域でこの伝達が起こる際は、あの世の架空性が、創造物の内容の虚構と現実の間の両面的な関係性として主題化されて享受者に伝えられるということを論じた。 これらの論文を、研究計画において予定していた論点ごとに整理して、冊子を作成した。「第一部民俗と伝承」「第二部文学と伝承」「第三部象徴と伝承」「第四部臨床における伝承」の4部構成とした。
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Research Products
(4 results)