2011 Fiscal Year Annual Research Report
ユダヤ系移民によるアナーキズムの形成と変容に関する研究
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21520083
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
田中 ひかる 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (00272774)
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Keywords | ユダヤ系移民 / アナーキズム / アナーキスト / ロシア / アメリカ合衆国 / イディッシュ語 / 歴史学 / 思想史 |
Research Abstract |
平成23年度の前半は、前年度までに収集した史資料・文献についての検討をさらに深めた。その結果、様々な可能性がある中で、ロシアから南北アメリカ大陸に移住したユダヤ系移民の中でアナーキストとなった人々が、ロシアで投獄・流刑に処せられたアナーキストを救援するために立ち上げたアナーキスト赤十字の活動に焦点を当てて検討することを通じて、本研究の目的である、移動を通じたアナーキズムの成立と変容を解明できる可能性が高いという予測を立てるに至った。8月には、以上の点に留意した史資料・文献調査とその収集を、国際社会史研究所(アムステルダム)で実施した。その後、とくにニューヨークで1890年から1977年まで刊行されたイディッシュ語によるアナーキストの機関紙『労働者の自由な声』および1911年から1917年までニューヨークで刊行されたロシア語によるアナーキストの機関紙『労働者の声』、およびそれらに関わった人々の回想録、それらに掲載されたアナーキスト赤十字に関わる記事を丹念に分析し、従来全く不明であったニューヨークにおけるアナーキスト赤十字の活動の全体像を把握するに至った。これらの調査・検討等に依拠して、10月に行った九州西洋史学会での報告では、ユダヤ系移民がロシアとアメリカとの間で移動と情報のやりとりを繰り返していた点を解明した近年の研究に依拠して、「故郷を捨ててアメリカ人になった」等のユダヤ系移民に関する通説を批判し、ロシア出身のユダヤ系移民に見られるトランスナショナルな思考や行動が、アナーキストを多数輩出した背景にある、と指摘し、アナーキズムの成立と変容が、移動・情報・ネットワークの結合によってもたらされた可能性がある、という仮説を提示した。なお、以上の過程で現代アナーキズム史も検討した結果、副産物として10月に刊行された、現代ドイツに関する論文集に収められたアウトノーメに関する論文を刊行した。本研究を総括する年度末に公表した論文では、異なる言語・出身地の移民が混在する中でユダヤ系移民によるアナーキズム思想・運動が形成されたという点を指摘し、ユダヤ系移民のアナーキズムが成立・変容した要因が、ロシア/西欧・アメリカ間の移動・情報・ネットワークの結合に求められる点を示唆し、アナーキズム史全体における、移動・情報・ネットワークに注目する方法論の有効性を提示した。
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Research Products
(3 results)