2011 Fiscal Year Annual Research Report
解釈学と歴史主義-A・ベークとJ・G・ドロイゼンについての事例研究-
Project/Area Number |
21520086
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
安酸 敏眞 北海学園大学, 人文学部, 教授 (40183115)
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Keywords | 解釈学 / 歴史主義 / ベーク / ドロイゼン / ディルタイ / シュライアーマッハー / トレルチ / ベルリン精神 |
Research Abstract |
本研究の目的は、古典文献学者アウグスト・ベーク(August Boeckh,1785-1867)と歴史学者ヨーハン・グスタフ・ドロイゼン(Johann Gustav Droysen,1808-1886)を対象として、この両者において《解釈学》(Hermeneutik)と《歴史主義》(Historismus)の両モティーフがいかに密接に関連し合っているかを、原典資料に基づいて究明することであった。この事例研究は、最初からかなり大きな規点の下に構想されたもので、シュライアーマッハー(Friedrich DaRiel Ernst Schleiermacher,1768-1834)からベークとドロイゼンを経て、さらにディルタイ(Wilhelm Dilthey,1833-1910)とトレルチ(Emst Troeltsh,1865-1923)にまで至る、《解釈学》と《歴史主義》の運命的な結合の内実を解明しようどする研究プロジェクトの第一段階として位置づけられたものであった。研究は当初の予想をはるかに超えるスピードで進み、単にベークとドロイゼンだけでなく、シュライアーマッハーからトレルチまでの5人の思想家-これら5人の思想家はいずれもベルリン大学で順次教鞭を執った間柄である-を一つの線で結ぶところまで行き着いたので、「《ベルリン精神》の系譜学」という副題をつけて、『歴史と解釈学』という表題の書物にまとめ上げることにした。シュライアーマッハーの一般解釈学の構想においてはまだ表面に出てこない《歴史主義》の契機は、弟子でありベルリン大学での同僚でもあったベークの「認識されたものの認識」(das Erkennen des Erkannten)において、前面に踊り出てくる。これによって彼の古典文献学は「歴史科学」としての位置づけを獲得することになる。ベークによって明確な姿をとった《歴史主義》のモティーフは、彼の学生のドロイゼンの史学論において、とりわけ「探究しつっ理解すること」(forschend zu verstehen)という研究方法において、万人が認める《歴史主義》のマニフェストとなる。「生を生それ自身から理解しようとする」ディルタイは、ドロイゼンを継承してそれを哲学的考察の前面に据え、入間の歴史性について多角的な分析を展開したが、歴史的理性批判」を目論む彼の解釈学的哲学は、最終的には「歴史的相対主義」の難問に逢着する。このようなディルタイ的苦境を解決すべくベルリン大学に着任したのが、神学者兼哲学者のトレルチである。彼の『歴史主義とその諸問題』は、歴史主義の問題をめぐる議論の頂点を示すものであるが、そこにはまた注目すべき解釈学的方法も示唆されている。ベークとドロイゼンに焦点を当てた本研究は、このように興味津々な広範な思想史的洞察へと導かれたが、ここで得られた知見をさらにハイデガーやガダマーなどの立場と付き合わせて、現代の漸しい視点のもとに検討することは、筆者がつぎになすべき重要な課題であろう。
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Research Products
(3 results)