2009 Fiscal Year Annual Research Report
説教原稿より探る、クザーヌスの根源洞察における基礎概念の変容
Project/Area Number |
21520087
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
佐藤 直子 Sophia University, 文学部, 教授 (60296879)
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Keywords | 思想史 / 神秘思想 / キリスト教 / 西洋哲学史 / 説教 / 根源 / 神名 / 概念史 |
Research Abstract |
15世紀前半という、中世と近世の狭間にいる唯一の思想家であるニコラウス・クザーヌス(1401-1464)の基礎概念の発展を追うことが、本研究の目的である。彼の体系には、古代・中世の多様な思潮-プラトン主義と新プラトン主義(アラブ思想を含む)、修道院神学、盛期スコラ、批判的には14世紀の唯名論-が流れ込む。また彼はエックハルトなど当時まだ評価が定まっていなかったドイツ神秘主義も取り込む。彼の根源は自己同一性構造を持ち、その自己同一化の動きのなかに、創造と完成という救済史的な動きを展開させるものだが、彼はそれを初期・前期では神認識の構造概念として、中期以降は神名称として端的に示していこうとする。しかし、神認識の構造概念であれ、神名称であれ、これを構成する概念は、esse、Dosse、idem、といった存在論的基礎概念である。こうした基礎概念は彼の思想の深まりによりアクセントには変更が見せる。しかし、高位聖職者であった彼の著作は分量としては少なく、また基礎概念の内包に重要な変更を見せる著作間には、執筆なしの空白の時間が存在している。彼の活躍の時代を鑑みれば、彼に見られる基礎概念の内包変更は、中世的思惟から折世的思惟の変容に重要な意味を持つ。彼の著作欠落の時期の思想的発展を、高位聖職者乏しては異例に多い、彼の説教草稿で補うという方法論を本研究では採用する。 2009年度は、最初期の説教を翻訳し、そのなかにはすでに"coincidentia oppositorum"や"complicatio-explicatio"の世界観の萌芽が見られた。しかし、源泉を羅列しつつ自らの体系としきれていない面も多々、確認することができた。また、中期の作であり、彼の神秘思想的著作の代表である"De visione Dei"に、最初期に見られた概念枠の完成形を見ることができた。前者については、翻訳原稿を作成し、後者については2010年度刊行の論文集掲載の論文として、出版母体に入稿した。
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