2011 Fiscal Year Annual Research Report
説教原稿より探る、クザーヌスの根源洞察における基礎概念の変容
Project/Area Number |
21520087
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
佐藤 直子 上智大学, 文学部, 教授 (60296879)
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Keywords | 説教 / 神秘主義 / 一性 / 同一性 / 根源 / 新プラトン主義 / 三位一体論 / プロクロス |
Research Abstract |
平成23年度は、平成21-22年度に行った説教原稿での根源理解の推移を、これまでのクザーヌスの著作研究から行ってきた「一性」「同一性」「相等性」「可能現実存在」「非-他者」「可能自体」という彼の根源理解の編成の中に入れ込むことを課題とした。研究の結果として、「一性」を「同一性」として理解していくことの前提には、すでに最初の哲学・神学論文『知ある無知』(De docta ignorantia, 1440年)以前の説教原稿において、その後の彼のモチーフとなる、自己認識を媒介とした自己同一性構造から一性を捉える思惟があることを指摘することができた。その思惟は、説教原稿においても、ボエティウス、および彼の三位一体論およびキリスト論に対するシャルトルのティエリーの註解の影響がすでに用語レベルから見て取ることができたが、加えて、クザーヌス・ホスピタル所蔵の写本リストと、『"知ある無知"の弁明』(Apologia)における一文から、実際にクザーヌスがティエリーの著作を熟読していたことの証左を得た。さらに、著作には現われないが、中期の説教において「必然的一」(unum necessarium)の概念が多用されていることを指摘することができた。この「必然的一」の概念は、一性概念が同一性概念と同定されることをもってプロクロス的一概念と自身の一概念を差別化する著作『創世について』(De genesi, 1450年)に先立つ説教に現われる。そこでクザーヌスは、一の自己同一性を語る際に、単にボエティウス-ティエリー的な三位一体論解釈の概念枠のみならず、アヴィチェンナ-スコトゥス的な「偶然的存在者の成立根源としての必然性」を枠組みとして用いていることが明らかになった。さらに、具体的な「聴衆」と特定の状況で為される「説教」の性格上、そこにはアリストテレス-トマス的なハビトゥス形成を軸とする人間論と、原罪論、救済論が随所に現われ、クザーヌスのキリスト教的新プラトン主義の存在論的枠組みは、救済史的視点に底支えされていたことも、明らかとなった。
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