2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520094
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 篤 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10212226)
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Keywords | 西洋美術史 / 19世紀フランス絵画 / マネ / 近代絵画 |
Research Abstract |
サロン批評の調査に関しては、パリのフランス国立図書館でマネの《鉄道》に言及した新聞雑誌記事を収集し、整理した。ドイツの美術館で作品調査も行い、《アトリエの昼食》、《アトリエ船のモネ》(ミュンヘン、ノイエ・ピナコテーク)と《温室》(ベルリン、国立絵画館)を綿密に実地観察した。また関連資料についてはオルセー美術館資料室で調査した。続いて、収集した批評の詳しい読解を行い、作品に対する当時の反応、受容を具体的に解析した。《鉄道》については、とりわけ当時の批評家たちがその人物表現に戸惑い、困惑し、解釈の非決定性に陥っていたことが判明した。そのことは数点存在するこの絵のカリカチュアを見ても理解される。さらに蒸気機関車の表現の斬新さも検討した。汽車の車体そのものを描かずに、煙突から出る白い煙だけでその存在とスピード感を示唆する手法は、当時あまり例を見ない。また画面右下に見える葡萄の存在も興味深い。作品の記号論的な分析によって、そこに五感の寓意という意味を読み込むことも不可能ではない。全体としては、マネの作品の特徴である、忠実な現実再現よりもイメージを操作しつつ画面を構成していく手法、作品の読み取りを混乱させる曖昧さや多義性が明らかになったと言える。同時代資料と造形分析を併用することで、マネの作品と当時の慣習的な絵画理解との落差があらためて浮き彫りになった。研究成果の一部は、2011年10月にブリブール大学で行われたシンポジウムで発表したが、さらに論文のかたちでその成果を公表したい。
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Research Products
(7 results)