2012 Fiscal Year Annual Research Report
装飾と「他者」-両大戦間フランスを中心とした装飾の位相と「他者」表象
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21520097
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
天野 知香 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (20282890)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 美術史 / フランス / 装飾芸術 / プリミティヴィズム / 他者表象 / 19世紀 / 20世紀 / アール・デコ |
Research Abstract |
本研究のテーマに基づき、本年度はまず、 1、両大戦間フランスにおける装飾芸術で展開された非西欧、とりわけ日本の技法や意匠の受容のあり方を考察するためのケース・スタディとして、両大戦間に漆装飾によって活躍したジャン・デュナンの調査をすすめ、8月から9月にかけパリのフランス国立図書館ほかにおける資料調査、および装飾美術館所蔵特別資料の閲覧、30年代美術館(ブーローニュ=ビヤンクール)資料室所蔵の資料閲覧を行い、貴重な写真図版資料等を入手した。 2、ジャン・デュナン調査に関連して、日本におけるジャン・デュナンの受容を調査するため、国立国会図書館、国立近代美術館、東京国立博物館の資料を調査した。この結果これまで知られていなかった新事実として、角田耕という日本人画家がパリのジャン・デュナンのアトリエで働いていたことを明らかにする資料を発見し、角田のパリおよび帰国直後の活動を跡づける資料を得た。 3、これらの調査研究をもとに、ジャン・デュナンを巡る研究をまとめ、2012年12月15日に日本女子大学文化学科主催ジャポニスム学会協力の国際シンポジウム「装飾とデザインのジャポニスム」において「アール・デコ期における漆装飾-ジャン・デュナン」と題する口頭発表を行い、海外の研究者と知見を交換した。 4、12月にニューヨークにおいて、19世紀から20世紀にかけての「他者」表象を巡る資料調査、作品研究を行い、19世紀における装飾芸術を巡る言説における「他者」の位相を検討するための資料を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、 1)かねてより研究を進めてきたジャン・デュナンをめぐる資料収集と調査をほぼ完全に終了することができ、研究の成果を、国際シンポジウムにおける口頭発表という形でまとめることができた。この研究において、ジャン・デュナンのフランスにおける活動に関する考察をこれまでの先行研究に比べてより深く掘り下げ、新たな視点でとらえることが可能となったと同時に、日本におけるジャン・デュナンの影響を新たに確認することができ、さらにこれまで知られていなかったジャン・デュナンのアトリエで働いた画家角田耕の存在も明らかにすることができた。こうした研究の結果、これまでのジャポニスム研究を相対化し、装飾における「他者」の位相を新たな視点でとらえる可能性を開いたことは収穫であった。 2)さらに装飾芸術をめぐる19世紀以降のフランスを中心とする言説における「他者」概念の位相を明らかにする資料収集と調査も順調に進んでおり、来年度に論文としてまとめる予定である。 3)本研究のもう一つの柱である、装飾芸術および美術における「他者」表象の作品調査に関しては、その範囲をどのように特定するかに関して問題も残るが、人種のタイプ化という問題を巡って1931年の植民地博覧会関連の表象を中心に作例調査を進めつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本研究のまとめの年と位置づけ、 1)ジャン・デュナン研究を補足する研究として、同時代に漆装飾を行った先駆的な作家の一人アイリーン・グレイの調査を5月にパリで行い、両者を対比する中で両大戦間におけるモダニズムと植民地主義を背景としたアール・デコの位相を考察する。 2)8月から9月にかけてパリ、ロンドンにおいて、19世紀から20世紀にかけての装飾芸術をめぐる言説における「他者」概念の位相についての資料調査を行い、9月末をめどに論文として発表する。あわせて両大戦間における装飾や美術における「他者」表象の作例調査を押し進め、論文としてまとめる準備を進める。 3)10月に現代美術における装飾と「他者」の位相を考察するため、ベネチア・ビエンナーレほかを調査する。 4)本年度中にこれまでの研究を著書として刊行することを目指すが、なお補足的な海外での資料および作品調査が欠かせないため、調査費用の不足を他の研究費で補う必要がある。また時間的にも調査の時間と論文執筆の時間を確保することが必要である。
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Research Products
(1 results)