2009 Fiscal Year Annual Research Report
南インド、ケーララ地方に現存するヒンドゥー教壁画の技法的・様式的研究
Project/Area Number |
21520106
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
定金 計次 Kyoto City University of Arts, 美術学部, 教授 (40135497)
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Keywords | 美術史 / 南インド / ヒンドゥー教 / 壁画 |
Research Abstract |
平成21年度は、交付申請書に記したように、当初ケーララ地方北部を調査する予定であったが、準備を行う段階において変更し、同地方南部パドマナバプラムの王宮壁画を中心に調査を実施した。理由は、調査が難しいとされていたパドマナバプラム王宮壁画について許可が得られる目途が立ち、最近インドにおいては文化財調査に関して規則が改定される傾向にあり、許可が得られる時点で調査を行うべきであると判断したからである。併せて、コーチのマッタンチェーリ宮壁画の調査を行い、同地方に残る壁画として最古の現存作例と言える、ティルナンディッカレーのヒンドゥー教石窟壁画についても調査を実施した。ケーララ地方独自の様式を持った壁画が現れ展開するのは、12世紀以降と考えられるが、遡る8世紀頃の石窟壁画と、様式が完成した後の17乃至18世紀の王宮壁画を調査したことになる。 ケーララ地方の壁画は、現存作例から同じ南部インドでも東海岸に沿った地域より遅く展開したと見られる。恐らく東のパッラヴァ朝などの影響により壁画制作が本格化し、徐々に独自性を発展させたと考えられる。ティルナンディッカレー石窟壁画は、ここ数十年でかつて最も取り上げられることが多かった男性像が全く消滅してしまうなど、保存状態が非常に悪く、下描き線だけが残る部分が殆どながら、制作時期が近いパッラヴァ朝壁画と同様に、古代の壁画様式が比較的はっきりと保存されている。その後、様式を単純化させながら、壁画が描き続けられ、南部インド西海岸沿岸地域にオランダ人やポルトガル人が来訪するに至り、ヨーロッパ絵画の影響が現れ、近世ケーララ壁画が完成の域に達した。上述の二つの王宮壁画は、その代表と言える。これらの王宮壁画から、比較的狭い地域に残りながら、17乃至18世紀だけに限っても、ヨーロッパ絵画の受容の仕方や地域的な差違によって、様式と技法の多様性が認められる点が注目される。
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