2011 Fiscal Year Annual Research Report
イタリアにおける共和制都市国家の美術に関する包括的研究
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21520108
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Research Institution | Shobi University |
Principal Investigator |
金原 由紀子 尚美学園大学, 総合政策学部, 准教授 (20445141)
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Keywords | イタリア / 都市国家 / 聖遺物 / フィレンツェ / 聖ゼノビウス |
Research Abstract |
平成23年度は、共和制都市国家の守護聖人とその崇敬に関する基本文献をさらに読み進め、フィレンツェで崇敬された聖ゼノビウスについての調査を12~15世紀の共和制政府と司教と都市貴族の関係を中心に実施した。同聖人は、初期キリスト教時代にフィレンツェ教会を創設した司教である。フィレンツェに聖遺物が遺る聖人という点では、同地の最初の殉教者である聖ミニアトゥスもいたが、同聖人の崇敬は歴史的に神聖ローマ皇帝との関係が深かったことから、共和制都市国家時代のフィレンツェでは大聖堂に聖遺物の遺る聖ゼノビウスが重視された。聖ゼノビウスは同都市の出身だったと伝えられ、子供の蘇生の奇蹟を起こしたとされる場所や移葬の最中に奇蹟が起きた場所など、市内に多くの痕跡を残していた。遅くとも13世紀末までには、ローマで叙任された新しいフィレンツェ司教がこうした痕跡のいくつかを訪ねるという入市式の儀式が整えられ、ゼノビウスは理想の司教のモデルとされていく。だが、その入市式の中で新しい司教が最初のミサを行なったのは、サン・ジョヴァンニ洗礼堂の、共和制政府を構成する中産階級の人々の守護聖人である洗礼者ヨハネの祭壇おいてであった。共和制都市国家時代のフィレンツェでは、このように各時代の政治情勢および司教と政府の関係性により、司教聖ゼノビウスに期待される役割は変化し続けた。 聖遺物と聖人崇敬の管理と促進に俗人が積極的に関与するという現象は、共和制都市国家に顕著に見られ、都市貴族と教会側から都市政府へと権力が移行していく経緯と並行して生じている。そのため、都市の守護聖人を表わした美術作品を分析することにより、教会や都市政府の政治理念や主張を示す含意を読み取り、従来は看過されてきた無名の美術家の作品を美術史研究の対象として取り込むという点に、本研究の独創性と意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
11~15世紀の共和制都市国家で崇敬された守護聖人の数がきわめて多く、守護聖人を造形化した際の典拠を特定するのに想像以上の時間を要しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、中部イタリアの共和制都市国家フィレンツェ、シエナ、ルッカ、ピストイア等を対象に、都市政府が聖俗の建築内に注文した美術作品において、都市政府の政治理念や立場が表象されるメカニズムを解明することを目的として取り組んでいる。ここに挙げた都市国家の中でもフィレンツェは、初期キリスト教時代から布教の拠点となり、13~14世紀にはギベッリーニとグエルフィの抗争の中心となり、中部イタリアの他の都市が抱えたあらゆる問題が既に内在していた。そこで、最終年はより明確で発展的な議論を行なうために、フィレンツェに焦点を当て、同地での都市貴族、司教、都市政府の関係性の中で守護聖人にかかわる美術作品の分析を進めていく。
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