2010 Fiscal Year Annual Research Report
日本近世における視覚文化の美的構造―美的性質の類型論を手がかりに
Project/Area Number |
21520113
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
岸 文和 同志社大学, 文学部, 教授 (30177810)
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Keywords | 美的性質 / 美的用語 / 視覚文化 / ヘルメレン / 面白い / 濃厚な / 淡泊な / 雅俗二元論 |
Research Abstract |
本研究は、日本近世における美的世界の全体構造を把握するために、次の2つのことを行うことを課題とする。すなわち第1に、近世の文学・随筆・画史・画論のテクストにおいて、視覚文化について語るために使用される美的用語、(aesthetic term)を博捜し、共時的な視点から、それらがどの種の対象に対して適用され、どのような美的=感性的な性質を意味しているのかを分析的に記述すること。第2に、そのようにして確定された美的性質を、ヘルメレン(G.Hermeren)の「美的性質の類型論」--ゲシュタルト的(gestalt)/趣味的(taste)/自然的(nature)/行動的(behavior)/表出的(expressive)/反応的(reaction)性質--に基づいて整理し、個別的な美的性質が相互に取り結んでいる関係・布置を明らかにすることである。 平成22年度は、岩波書店の「日本古典文学大系」をデジタル化した国文学研究資料館の「日本古典文学本文データベース」の中世の部(296作品)を利用して、日本中世の視覚文化について語る美的用語の収集を試みるとともに、国際学会での発表1件を行い、1編の著書(分担)を執筆した。すなわち、第1に、国際美学会(北京大学)での発表"The View of the Mountains Was"Amusing" : Surveying the Application of the Japanese Aesthetic Term Omoshiroshi to Nature"(2010年8月)は、広重の旅日記に使用された「面白し」という美的用語の意味を、広重自身の作品と、広重による北斎作品への言及を参照することによって、明らかにすることを試みるものであった。第2に、「趣味と蒐集の地勢学--大正14年の《趣味国名所図会》を読む」(近畿大学日本文化研究所編『日本文化の攻と守』、44-72頁、風媒社、2011年3月)は、直接的には、大正時代における「趣味」のひとつとしての「蒐集」の様相を明らかにすることを目的とするものであった。しかし、間接的に、大正期に蒐集の対象となった大衆的印刷物を記述する美的用語(「濃厚な(こってりした)」[淡泊な(あっさりした)」「洒落た」「凝った」「念入りな]「手軽な」)が、東西(東京/大阪)の趣味を対比的に記述するために用いられていることを明らかにすることによって、近世までの文化に特徴的な雅/俗の二元的構造を、近代における濃/淡の三分的構造と対比的に把握する手がかりを提供するものとなった。
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