2009 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世における〈武〉の文学表現と歴史・伝承との連関についての総合探究
Project/Area Number |
21520180
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
久保 勇 Chiba University, 大学院・人文社会科学研究科, 助教 (10323437)
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Keywords | 日本文学 / 軍記 / 戦争 / 律令 / 武士 / 保元物語 / 平治物語 / 平家物語 |
Research Abstract |
「武者の世」の開幕として知られる<保元の乱>、そして3年後の<平治の乱>をめぐる戦後処理の表現を『保元物語』『平治物語』で問題化した。弘仁以来の死刑復活を「非常ノ断ハ、人主ヲ専ニセヨ」と促した信西の言葉は、『律令』(名例律)を淵源とし、本来これは減刑をめぐって天皇の判断に委ねられるべきことを述べた文言であった。従来の注釈研究でこの原拠は明らかにされず、法制史研究で指摘はあったものの、戦後処理をめぐる<物語化>について問題化した研究はない。『保元』の当該部は、表向き300年余継続した死刑復活を告げる場面として重く、『平治』における藤原忠通の信西批判と響き合い、歴史的にも軍記物語の問題としても重要である。史料的制限によって詳細な史実の考究は困難だが、『保元』に描かれた死刑復活の<物語>を<歴史>と認識する見方は改める必要がある。『律令』にあった「罪を赦す」という本来の意味を逆転させ、朝廷の最高権力者であった後白河天皇に「死刑」の裁断を促す<物語>化は、『保元』が成立した鎌倉期の武士社会と天皇(朝廷)との関係性の一端を示すともいえる。戦後処理の法的手続きと「武断」とが混淆した<物語>は、近代の大戦や今日の国際的な紛争の「戦後」を考える上で重要であり、繰り返される戦後の「語り方」であったと見通される。(日文協研究発表)さらに、『保元』『平治』における敗戦後の武士たち(源為義・為朝・義朝・義平・頼朝)に注目し、その処分をめぐって『律令』的な法的規範が適用されている一方(為朝や頼朝の流罪という史実)、死罪となった敗者に対しては武士の<物語>としてその顛末が<物語>化されていることを指摘した。また、『保元』『平治』の敗者の<物語>が『吾妻鏡』(文治5年6月~9月記事)の「奥州合戦」記事に響き合っている可能性を指摘し、次年度以降の課題とした。(明治大学シンポジウム発表)
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Research Products
(4 results)