2010 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世における〈武〉の文学表現と歴史・伝承との連関についての総合探究
Project/Area Number |
21520180
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
久保 勇 千葉大学, 大学院・人文社会科学研究科, 助教 (10323437)
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Keywords | 日本文学 / 軍記 / 戦争 / 律令 / 後三年記 / 保元物語 / 平治物語 / 林春斎 |
Research Abstract |
成稿した成果として「敗戦後の武士たち-『保元物語』『平治物語』で処分された人々-」を公表した。「死」を以て処分された為義・義平・義朝、対して「死」を免れ処分された為朝・頼朝を検証し、古熊本に残存する律令的な法的処分の表現によって、生存者たちが描出されている特徴を指摘。金刀比羅本等の後出本に至っては、法的な表現が後退し、武士間における〈武〉の処分として書き換えられていく傾向を捉えた。武士の時代の蓄積により、戦後処理の場面が戦場と地続きの〈武〉の表現に覆われていく傾向は重要である。口頭発表した「『奥羽軍志』をめぐる一七世紀中葉の文化状況」の成果は、『陸奥話記』本文・『後三年合戦絵巻』詞書を継承し、寛文年間に板行された『奥羽軍志』周辺の文化状況から、古代・中世の〈武〉の表現が、近世に至ってどのように受容・伝承されていたか明らかにしたことである。「源氏」の系譜を継承する徳川幕政下にあって、書肆・林和泉掾時元の依頼により林春斎が寄稿した「序」は、源家の〈武〉の表現の権威を保証する一方、『後三年記』における残忍な〈武〉の表現への批判も含んでいた。さらに注目すべきは『後三年記』が『前太平記』に本文を提供している事実である。樋口大祐氏(「太平記的なるもの前太平記と太平記」2008)が指摘する通り、『前太平記』は源氏を手放しに称揚する作品ではない。『後三年記』は『前太平記』という源氏を批判的に描く作品を生み出す直接的な契機となっており、後三年合戦にかかる賛否双方の認識を生み出す存在になっていた。「戦争の語り方」には本質的に賛否双方の視点があるはずだが、その具体的事例として『奥羽軍志』の検討は有効であったといえる。〈武〉の表現をめぐっては、為政者の権威を保証するために存在したとする成果は多いが、批判的な姿勢を以て再生産されていく経緯についても明らかにしていかなければならない。
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Research Products
(3 results)