2011 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世における〈武〉の文学表現と歴史・伝承との連関についての総合探究
Project/Area Number |
21520180
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
久保 勇 千葉大学, 大学院・人文社会科学研究科, 助教 (10323437)
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Keywords | 日本文学 / 軍記 / 戦争 / 検非違使 / 平家物語 / 保元物語 / 平治物語 / 明法道 |
Research Abstract |
本研究の大きな課題である「<武>の文学表現と歴史・伝承との連関」について、以下の一定の見通しを得た。武士政権への移行期(平安末~鎌倉期)の〈武〉の文学表現(『保元』『平治』『平家』)のなかで、敗者/罪人に対する暴力行為に注目すると、行為主体として検非違使/武士が描き分けられる場合、武士に収劍していく傾向とに分かれる。前者については相違点を明らかにしつつ検非違使の「罪業」を論じられた山口眞琴氏の先行研究(「検非違使と罪業をめぐって」2003)があり、一方保立道久氏(「日本中世の諸身分と王権」1993)のように検非違使/武士にとって身体的特性としての「暴力」は根本的に同様とみる見解もある。如上の2つの観点を軍記文学における断罪(戦後処理)の場面に照らすと、前者の描き分けは古態系本文に残存するが、後出諸本によっては検非違使の存在と行動が省略され、武士の行為として描かれる本文変化が認められる(『保元』『平治』『平家』)。また、近時樋口大祐氏(『変貌する清盛』2011、「敗北する検非違使」2011)が論じられたように、『平家物語』には「検非違使の文学」ともいうべき構想を抱えている。本研究では『保元』『平治』『平家』の3作品の接点となった、それぞれの戦乱での「戦後処理」の場面で「首」にかかる叙述に注目し、相互に響き合う構想を認め、検非違使の存在に注目した。具体的には、『保元』の死罪復活・『平治』の義朝梟首・『平家』の「紺掻説話」が対象としている。各話の骨格は歴史的に裏付けられ、博士判宮・坂上兼成が注目されることから、共通する伝承の発生基盤として、検非違使や明法家周辺を想定した。この時代背景として「非常ノ断ハ人主ヲ専ニセヨ」(『保元』信西による死罪復活、本研究初年度報告参照)の文言の解釈が議論となった「陣定」(寛元二年石清水八幡宮神殿汚穢事件、早川庄八1986参照)の影響等も考えている。
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Research Products
(1 results)