2012 Fiscal Year Annual Research Report
浄土真宗と和歌―真宗仏光寺派と桂園派の関係を中心として―
Project/Area Number |
21520191
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
田中 仁 鳥取大学, 地域学部, 教授 (80217067)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 浄土真宗 / 和歌 / 真宗仏光寺派 / 香川景樹 / 桂園派 / 因幡・播磨の浄土真宗僧 |
Research Abstract |
本年度は、本山仏光寺所蔵資料、洛東遺芳館所蔵柏原家資料の調査を中心に研究を実施した。その成果として、仏光寺派第十九世門主随庸上人の伝記の誤りを正し、残されている詠歌を全部紹介することができた。伝記については仏光寺史研究の基本文献である『渋谷歴世略伝』(真宗全書所収)のいくつかの誤りを指摘し、本山仏光寺所蔵『渋谷歴世略伝』原本の調査にもとづき誤りが生じた理由を推定した。詠歌に関しては『随庸上人和歌集』ほかを翻刻し、成立年次、望月長好、二條道康などとの交流について記し、一派の門主の歌集でありながら釈教歌がほとんどないこと、その歌が「和歌らしい和歌」を作ろうという努力の産物であることを指摘した。随庸上人は明暦二年(1656)から延宝三年(1675)まで門主の職にあったが、この期間は幕府の寺院統制により仏光寺が準門跡寺院としての体制を整えていく期間と重なっており、かつ宗祖親鸞は公家の出であることが喧伝され、和歌の名手であったという伝承が流布した時期でもあった。随庸上人がいかにも和歌らしい和歌を作ろうと努めたのは、そうした時代の反映だったと見ることができる。以上「真宗佛光寺派第十九代門主随庸上人の和歌」の摘要である。 そのほか、本山仏光寺所蔵近世和歌資料の目録の作成、洛東遺芳館所蔵近世文書の調査を実施した。前者の本山仏光寺の近世和歌資料は元治の兵火によりほとんど焼失したとされているが、それでも香川景樹に関わるものをはじめとしてかなり多量に残っている。また、鳥取の浄土真宗寺院については、加知弥神社神官飯田秀雄(寛政三年1791~安政六年1859)と交流のあった因幡・播磨の浄土真宗僧の和歌を、『加知弥神社飯田家資料集稿』第三編「歌合」の一部として翻刻し、簡単な解説を付した。これらの諸成果は、今後浄土真宗と和歌との関係を考察するための基礎になると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(理由)平成23年の親鸞七百五十回大遠忌の諸行事の影響がまだ残っていること、真宗仏光寺派の派内事情により、 調査のための寺院訪問が不十分であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本山仏光寺をはじめとする浄土真宗寺院、柏原家などの門徒家に伝わる和歌資料の調査・研究、および香川景樹の歌日記そのほかの既知の文献に関わる調査・研究を継続する。寺院のうち仏光寺派本山仏光寺、門徒家のうち柏原家(西本願寺派門徒)の所蔵資料については、昨年度までと同様月に1回、1回8時間のペースで調査と写真撮影を行う。このことについては仏光寺派門主、柏原家資料を保管している洛東遺芳館館長の承諾を得ている。そのほかの寺院・門徒家については、それぞれに応じた方策を立てなければならないが、資料調査は可能な限り紹介者を立てて依頼する予定である。
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