2011 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀イギリスにおける『乞食オペラ』プロジェクトの歴史的意義
Project/Area Number |
21520229
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
吉田 直希 小樽商科大学, 言語センター, 教授 (90261396)
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Keywords | オペラ / 犯罪 / 国民国家 / 小説 / 公共圏 / エロティカ |
Research Abstract |
『乞食オペラ』はロンドンの暗黒世界を舞台にスリ、追い剥ぎ、殺人、裏切り、縛り首などのシーンをふんだんに盛り込んでいるものの、犯罪のリアリズムを追求した作品ではない。むしろ18世紀全体を通して人気のあった犯罪文学のパロディと考える方が自然であり、内容と形式の不一致が生み出すユーモアがこの作品の最大の特徴と言えるだろう。本研究では、このユーモア感覚を現実批判の有効な手段ととらえ、フィクショナルな世界の構築がいかに重要であったかを考察するものである。最終年度においては、ジョンソンの英語辞典を中心に、国民語としての「英語」創造の試みを『乞食オペラ』が表象するホモソーシャルな帝国主義の観点から考察した。その際、ナショナリズム誕生に決定的な意味を持つ俗語の同一性=辞書編纂に『乞食オペラ』のバラードがいかに重要であったのかを用例によって検証した。さらに、2年間の研究成果を総括し、「18世紀イギリスにおける『乞食オペラ』プロジェクトの歴史的意義」についての論考執筆にとりかかった。ホモソーシャルな帝国主義の文学的表象として18世紀中葉のエロティカを題材に、23年10月には"When Pleasure Becomes Word : Sexual Desire in Memories of a Woman of Pleasure"を発表した。また24年3月にはアメリカ18世紀学会のパネル"Globalizing the Enlightenment through the Representations of Asia"を企画し、アジア表象の視点から18世紀的イギリス帝国主義の問題点を批判的に検討した。これまでの3年間にわたる研究により、ハーバーマスの公共性概念とアンダーソンの共同体幻想論を有機的に結合させ、ポスト・コロニアルな視点からイギリス国民誕生の歴史を詳細に辿り直すことに一応の道筋をつけることができたと評価できるだろう。
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