2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520234
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小田 友弥 山形大学, 地域教育文化学部, 教授 (20085468)
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Keywords | 湖水地方 / 共和主義 / 農民 |
Research Abstract |
ワーズワスの湖水地方農民像と共和主義の接点を考察するために、18世紀における共和主義的思考の普及過程を辿った。その結果、コート派(Court)の堕落を奢移として批判し、田舎の地所での自立した生活を称揚するカントリー派(Country)の視点が、湖水地方はもとより、スコットランド高地地方やウェールズなどを扱った書籍にも広く浸透していることを確認した。こうした共和主義的論調は、経済的自立を説くことや奢移批判などで、牧歌などの田舎を扱う文学とは区分される。 私はこれまで、湖水地方の地方史や地誌、農業や産業などを扱った書籍、湖水地方旅行書などに見られる農民への言及などを収集してきたが、平成23年度は、それらの文献を年代順に整理し、湖水地方農民の描き方の変遷をまとめた。その結果、農民像は、1794年のカンバーランドとウェストモーランドの農業委員会報告出版を契機に変化していることを確認した。これらの報告書は、囲い込などの農業近代化のなかで、父祖伝来の地で自主独立などの共和主義的徳を保ちながら生計を営む小農ステイツマンを紹介しており、この農民像は、1795年以降の湖水地方関係書に登場する農民の原型とならている。 ワーズワスの初期から『湖水地方案内』(1835)に至るまでの湖水地方農民像を年代順に整理した。彼がフランス革命などを契機に共和主義に傾倒し、その農民像を理想社会の住民のものとして重視したことは、『言葉による風景描写』(1793)から明らかである。しかし、彼が湖水地方農民に共和主義的特徴を見るのは、1799年暮れにグラスミアに移住後である。これは、彼が移住後に農業委員会報告により急速に広まった農民像に、理想社会の住民の姿を重ねたことを示唆している。 『序曲』第8巻でワーズワスは、過酷な労働に勤しむ湖水地方の農民を、安逸な生活を送る伝統的牧歌の農民と対比している。そこから彼の湖水地方農民像は、牧歌の視点から扱われやすいが、本研究は、彼の農民像が共和主義の理念と深く結びついていることを明確にした。
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