2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520249
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
森岡 裕一 大阪大学, 文学研究科, 教授 (20135635)
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Keywords | 19世紀アメリカ / 禁酒小説 / T.S.Arthur / 説諭と強制 |
Research Abstract |
本年は、シカゴにあるニューベリー図書館、ニューヨーク市立図書館に調査の対象を広げ、禁酒運動の貴重資料の調査を行った。その結果、多数の禁酒小説のテクストのコピーをすることができた。とりわけ、アメリカ禁酒小説の代表作家である、Lucius.SargentとMary Chellisの作品を入手できたことは大きい。テクストの収集と並行して現在入手している資料の分析も積極的に進め、その成果の一端は、後述の論文で発表することができた。論文の主旨は前期の作品ばかりが注目されるT.S.Arthurの作家活動にとって、晩年の禁酒小説の持つ意義が同様に重要であること、とくに、説諭と強制をめぐるテーマは、禁酒小説という範囲にとどまらず、輻広いコンテクストにおいて、人間の自由意思をめぐる問題に直結し、また、19世紀アメリカの文化背景に照らしてみても、奴隷制度、女性参政権運動と通底するテーマを含んでおり、今後の研究の展開が期待できる。文学的には、「誘惑のレトリック」「侵入-排除」といった18世紀イギリス小説由来のモチーフの流れの中に禁酒小説を位置づけることができ、同時期のサブジャンルである家庭小説との関連性を浮かび上がらせることができた。 なお、本年度刊行された、研究代表者の編著書『西洋文学-理解と鑑賞』(大阪大学出版会)で担当した項にも、メルヴィルをめぐる論考など、本研究過程で得られた知見が盛り込まれ、研究の副産物としての意義は大きい。また、最新の研究動向を探るべく、ペンシルバニア大学のデヴィッド・エスピー教授、ペンシルバニア州立大学のサイモン・ブロナー教授らと親しく意見交換ができたことも大きな成果である。
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