2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520261
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
藤吉 清次郎 Kochi University, 教育研究部・人文社会科学系, 教授 (80238625)
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Keywords | スレイヴ・ナラティヴ / 黒人奴隷制 / ホーソーン / モリソン |
Research Abstract |
平成21年度の研究計画は、19世紀の奴隷制問題がホーソーンの創作にいかなる影響を及ぼしているかを具体的に検証することによって、ホーソーンの人種意識の一端を明らかにすることであったが、ほぼ計画どおり、研究を進めることができた。その成果としては、論文「The Scarlet LetterとBeloved」においてホーソーンが『緋文字』を執筆する際に、19世紀中葉アメリカで盛んに書かれていたスレイヴ・ナラティヴを意識していたと想定し、このホーソーンの代表作をスレイヴ・ナラティヴの観点から考察した。ピューリタン社会においてヘスターの置かれた状況は、奴隷制下で苦しむ奴隷の母親の状況と酷似していることを指摘し、さらに現代黒人女流作家トニ・モリソンの代表作で黒人奴隷制の悲惨さを描いた『ビラヴィド』と比較検証することによって、より具体的にはヘスターの苦悩とセスのそれを比較考察することによって、ホーソーンのスレイヴ・ナラティヴが黒人奴隷の苦悩を十全には描きえていないことを明らかにした。 研究意義については、これまでのホーソーン研究において、確かにサクヴァン・バーコヴィッチのように『緋文字』の結末の曖昧性を奴隷制問題に関連付ける解釈は提出されてきているが、上記の論文で考察したような、スレイヴ・ナラティヴからホーソーンの作品を検証した研究が殆どない点において、十分評価できると思われる。
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