2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520261
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
藤吉 清次郎 高知大学, 教育研究部・人文社会科学系, 教授 (80238625)
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Keywords | スレイヴ・ナラティヴ / 黒人奴隷制 / ホーソーン / ムカジー |
Research Abstract |
平成22年度の研究計画のひとつは、F・ダグラスとH・ジェイコブズなどの奴隷体験記を検証することによって、奴隷体験記がホーソーンの文学に与えた影響を考察することであったが、残念ながら研究成果としては提出することができなかった。しかし、ホーソーンの『緋文字』が現代インド系アメリカ人女流作家ムカジーに与えた影響を考察し、その研究成果として、論文「ムカジーとホーソーン---"hybridity"の問題をめぐって---」を提出することができた。本論文において、現代インド系アメリカ人女流作家ムカジーがアメリカ文学の古典『緋文字』を換骨奪胎して『The Holder of the World』を創作した要因を論究した。その作品において、ムカジーは20世紀アメリカに生きるベイ・マスターズという若い女性に17世紀のアメリカにタイム・トラベルさせ、当時生きたハンナ・イーストンの経験を追体験させることによって、アメリカが文化的にも歴史的にもインドと関わっていることを描き出している。ホーソーンが、ちょうどパールの人物造型において分かるように人種的な混淆を否定的に描いている一方で、ムカジーが人種的混淆、あるいは文化的混淆を多文化主義アメリカの理想的な在り方として肯定的に描いていることを明らかにした。 研究意義については、『緋文字』における「異種混淆」("hybidity")の問題はこれまでのホーソーン研究において十分には検討されていない点において、十分評価できると思われる。具体的には、本論文は現代の多文化主義国家アメリカにおける『緋文字』の有する意義と可能性を指摘している点で評価できると考える。
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