2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520261
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
藤吉 清次郎 高知大学, 教育研究部・人文社会科学系, 教授 (80238625)
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Keywords | 奴隷制廃止運動 / 白人中産階級社会 / 人種表象 / ホーソーン |
Research Abstract |
本年度の研究成果としては「The Bilithedale Romance論---奴隷制廃止運動を巡って---」があげられる。これまでホーソーンの第3の長編『ブライズデイル・ロマンス』は奴隷制廃止運動と関連づけて論じられてこなかった。というのも、『ブライズデイル・ロマンス』には当時アメリカ社会において最大の問題であった奴隷制に関する言及がなされていないからである。しかしながら、ホリングズワースやゼノビアなどの改革運動家たちの人物造型に着目してみると、彼らが密かに、当時の奴隷制廃止運動に関係づけられていることがわかる。ホリングズワースは博愛主義者とされるが、当時アメリカ社会では奴隷制廃止主義者は博愛主義者と呼ばれていた。一方ゼノビアは過激なフェミニストとされるが、当時のフェミニストは女性の立場と奴隷の黒人のそれの類似性を強調し、奴隷制廃止の立場をとっていたのである。 研究論文では、ホリングズワースやゼノビアがいかに白人の中産階級社会にとっていかに危険な存在であり、そして彼らがどのように、黒人や東洋人などの有色人種表象によってその人物造型がなされているかを明らかにし、語り手カヴァデイルが物語の最後にプリシラへの愛を告白する意味を考察した。本論文は『ブライズデイル・ロマンス』が奴隷制問題を十分に意識したテクストとして読むことができるということを明らかにした点で十分な意義を有していると判断される。 ただ、研究計画から見れば不満は残る。それは平成23年度の研究計画としては過去2年の研究成果を踏まえて、発展的にホーソーンと人種表象というテーマに関して総括を行う予定であったからである。研究期間では、果たせなかったが、この3年間で蓄積した、ホーソーン作品における人種表象のデータをさらに吟味しまとめて、計画どおり書籍の形で研究成果を発表する予定である。
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