2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520279
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
宮津 多美子 順天堂大学, 医療看護学部, 講師 (60509660)
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Keywords | スレイヴ・ナラティヴ / 奴隷制 / 南北戦争 / 母性 / アメリカ / 19世紀 / アフリカ系アメリカ人 / 家族 |
Research Abstract |
19世紀中葉、南北戦争前後に出版された元奴隷のアフリカ系アメリカ人(黒人)女性によるスレイヴ・ナラティヴ(奴隷体験記)では、フレデリック・ダグラスやウィリアム・ウェルズ・ブラウン、ジョサイア・ヘンソンなどの黒人男性によるナラティヴとは異なる視点で奴隷体験が語られている。同じ奴隷女性の体験を語るとき、男性作者は目撃者の立場からより悲劇的に、女性は当事者の立場からより肯定的に語る傾向が認められる。さらに、女性ナラティヴでは奴隷主の非道さや個人的な能力、自己実現の過程より、母性や家族に関わる精神的な苦悩とその克服への意思が強調されている。そこには彼女らが信仰心や自尊心を支えに、性的搾取や家族の別離に向きあい、それらの試練を乗り越えようとする姿が描き出されている。女性は女性にしか語れない奴隷体験を主に(白人)女性読者に向かって訴えかけたと考えられる。 今年度はソジャナー・トルース、サリー・ウィリアムズ、ハリエット・ジェイコブズ、エリザベス・ケクリー等、南北戦争をはさむ1840~1860年代の作品を取り上げた。トルース、ジェイコブズ、ウィリアムズ、ケクリーは、突然ふりかかる性的暴力の恐怖や自分の子供さえ守れない母親としての苦しみについて述べているが、ナラティヴではこれらの体験は悲劇というより試練として肯定的に語り直されて読者に提示されている。このように、女性によるナラティヴは、女性たちが奴隷主や黒人男性が描いた奴隷制とは異なる奴隷制を生きなければならなかったことを示すものである。 今後の研究では、主に南北戦争後の女性によるナラティヴを取り上げ、これらの作品において家族や母性の問題がどのように提示されているのか、また、これらの描写が戦前のナラティヴとどのように異なっているのかといった点を奴隷制廃止後の社会情勢や世論の変化を考慮しながら明らかにしていきたい。
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Research Products
(3 results)