2010 Fiscal Year Annual Research Report
ジェイムズ・ジョイス初期作品から『ユリシーズ』に至る人間身体の表象
Project/Area Number |
21520287
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
坂内 太 早稲田大学, 文学学術院, 講師 (60453990)
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / ユリシーズ / 身体表象 |
Research Abstract |
ジェイムズ・ジョイス初期作品から『ユリシーズ』に至る人間身体の表象を考察するにあたり、この作家が不断に取り上げてきた「告解室」のテーマと、それに密接に関わっている「変身・変容」のモチーフを分析した。また、このテーマを当時の文学・演劇的コンテクストにおいて考察した。その結果、以下の二つの点が明らかとなった。 先ず第一に、アイルランドのカトリック教会では、告解室の中で聖職者に自分の罪を告白して改悛した信者は、聖職者から赦しの秘跡を与えられて神との和解を果たすことになっているが、ジョイスは、同一の人間が閉鎖された暗がり・限定的な空間の中に入って他者と接触する時とそこから出てきた時とでは大きな差異一精神的な変容一を経験するという、この一種の霊妙且つ厳粛なブラックボックスが、自分と同時代のアイルランド社会ではうまく機能せずに、一種の麻痺状態にあることを、初期の短編集『ダブリン市民』、及びそれに続く中編小説『若き芸術家の肖像』において、様々な変奏を伴いながら検討・探求し続けた。 第二に、ジョイスは、1900年代初頭のアイルランド演劇運動に辛辣且つ批判的な距離を取りながらも、不特定多数の観客が美的構築物・ヴィジョンに触れて精神的に変わっていく可能性に魅了されていた。これらの要素の結節点に見られるのが『ユリシーズ』に於ける「非日常的な限定的空間への出入りを通じた変容」というテーマであり、この作家は劇場概念と結びつけつつ、ポジティブにそれを描いていった。 第一と第二の個別な論点に関しては、本年度の研究成果として各々独立した論文として発表した。
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Research Products
(2 results)