2011 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ文学と写真/ドキュメンタリーとのインタラクティヴな関係に関する学際的研究
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21520292
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
中 良子 京都産業大学, 文化学部, 教授 (50237195)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
花岡 秀 関西学院大学, 文学部, 教授 (40172944)
渡辺 克昭 大阪大学, 言語文化研究科, 教授 (10182908)
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Keywords | アメリカ文学 / ドキュメンタリー / 写真 / John Steinbeck / Dorothea Lange / Susan Sontag / Don DeLillo / William Faulkner |
Research Abstract |
今年度の研究成果としては、日本アメリカ文学会関西支部大会において、ドキュメンタリー的想像力と文学表象の相互関連性について考察することを目的としたフォーラム「Natural Disasterとアメリカ的想像力」を、中が司会者としてコーディネートし、渡辺とともに講師を務めた。中は、30年代に中西部を襲った砂嵐をめぐるFSAの写真プロジェクトを中心としたドキュメンタリー表象について考察し、ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』が、時代のイコンとなったドロシア・ラングの写真『移動難民の母』の上書きの物語として読めることを明らかにした。渡辺は、スーザン・ソンタグの『火山の恋人』に着目し、主人公ウィリアム・ハミルトンが画家ピエトロ・ファブリスに描かせたヴェスヴィオ火山の精緻な色刷り図版付き豪華本『火の平原』を、当時最先端の彩色技術を駆使した火山観測ドキュメンタリーとして捉えることにより、両者のインタラクティヴな間テクスト性を考察した。その結果、ハミルトンの細密な火山グラフィックスに魅せられたソンタグが、カットアップされた火山表象や溶岩標本をテクストに周到に配置し、無尽の時空を内蔵する歴史のポイエーシスに新たな地平を賦与していることが判明した。 さらに、花岡と渡辺の共著『異相の時空間-アメリカ文学とユートピア』の出版を挙げることができる。花岡は、「ユートピアの影-南部共同体のある現実」において、ウィルスの伝染という観点から、ウィリアム・フォークナーの小説に描かれた南部共同体の本質的な特質の解明を試みた。ドキュメンタリーで扱われことが一般的である病原性ウィルスによる発病のメカニズム、そして感染という物理的な事象が、文学作品で描かれる南部共同体における情報の伝播のメカニズムの解明に有効な視点を提供してくれる可能性を論じ、文学とドキュメンタリーの関係を探る上での新たな展望を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各自の研究の進展の度合いに応じて着々と口頭発表や論文で成果を発表し、共著書によって共同研究の成果を公表するという最終目的に向けての準備が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
ドキュメンタリー作品の選択、検証にさらにウエイトを置き、各自の担当分野において研究を続ける。 来年度は研究の最終年度となるので、共通のトピックを設定して各自の研究成果を統括し、共著書として公表することで、文学とドキュメンタリーの共振関係に注目したアメリカ文化論の構築を目指す。
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