Research Abstract |
今年度は別表に記すように,極めて充実した研究成果を上げることができた.以下,別表の掲載順に(1)から(10)のナンバリングを行い,代表者の成果((1)~(5),(7)~(10))を中心にその内容を報告する.まず(1)では,10世紀に成立したビザンティン典礼の式次第が,当時隆盛を見たアリストテレス的百科全書人文主義の解明に示唆を与えることを指摘した.(2)は,ビザンティン典礼教会の本質が「十字架上の聖体=教会共同体」論にあることを主張した上で,1990年に発布された『東方教会法典』の精神性が,聖体からの聖霊の溢れによる世の聖化であることを指摘した.(3)では,ヘロドトスが,『歴史』の枠組みをペルシア帝国の為政者4代の交替史とした著述方針をめぐり,「他者による証し」という観点から,『使徒行録』におけるパルティア人の役割,マケドニア朝ルネサンス期における抄録編纂の傾向と併せて意義づけた.(4)では,古典古代学の祖としての慈雲をめぐり,唐招提寺系四分律の法統と,西大寺系悉曇密教の法統とを併せて彼が復興した次第を文献学的に追跡した.(5)は,本邦初訳としてクレメンス『プロトレプティコス』の全訳を公表したものである.研究発表3本は,いずれも国際学会での欧語によるものであり,(7)では,使徒パウロが使徒ヨハネの共同体とエフェソスで接触を持ちえたことの可能性を,神学面での変化と聖人伝「メノロギオン」の記述とを基に指摘した.(8)は,オリゲネスによる『エゼキエル書講話』の構成上の不均衡性をめぐり,『黙示録』による予型論的視点に基づいて著者が講話箇所を選択した可能性を提唱した.(9)では,『使徒行録』を古代史学史上に位置づけ,パウロがローマを目指したという『使徒行録』の記述をめぐり,ルカによる普遍史的傾向を指摘した.(10)では,ハンガリーや中欧に篤く拡がる「ギリシア・カトリック教会」の概説として,宇宙論的時空間感覚を基盤に展開されるその典礼を軸に記述した.
|