2011 Fiscal Year Annual Research Report
ボードレールからゾラへ、美術と文学における「モデルニテ」概念の継承と変容
Project/Area Number |
21520328
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉田 典子 神戸大学, 大学院・国際文化学研究科, 教授 (20201006)
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Keywords | ゾラ / ボードレール / マラルメ / マネ / 印象派 / モデルニテ / 文学と絵画 / 美術批評 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ゾラがボードレールから受け継いだものを明らかにすると同時に、ゾラが自身の美術批評活動および創作活動において、どのように同時代的な関心を推し進めていったのかを明らかにすることである。 本年の研究実績は、3本の公刊論文と、京都大学大学院文学研究科に提出し、審査に合格した博士論文「ゾラとマネ、印象派-1860年代後半から1880年代前半における文学と絵画」にまとめることができる。 まず、論文「ゾラはマネを理解しきれなかったのか-マラルメとゾラの美術批評におけるマネ評価について」においては、マネと関わりの深い文学者として、1860年代前半に関してはボードレール、1860年代後半に関してはゾラ、そして1874年以降についてはマラルメが結びつけられる傾向にあることを確認した上で、従来ゾラの70年代以降の美術批評は軽視されていることに疑義を呈したものである。マラルメのマネ論は、印象主義の美学を見事に捉えたものとしてその重要性は明らかであるが、逆にマネと印象派と強く結びつけ、絵画における色彩や筆触などの物質的側面を強調する結果となったことも確かである。一方ゾラの70年代の批評の特色は、美学的な問題を扱うというよりも、芸術の社会学的・制度論的な問題を重視するものである。ゾラは79年のマネへの留保を示す一節によって、結局はマネを理解できなかったとされるが、本論ではその理由をゾラの立場から考察し、また84年のマネ遺作展への序文を読み直すことで、ゾラは最後までマネを高く評価していたことを明らかにした。また、論文「ゾラの美術批評と印象派」においては、79年と80年のゾラによる印象派、特にモネへの苦言について、従来はゾラの無理解と考えられていたのに対し、当時の印象派が置かれていた社会的状況との関連からその理由を解明した。以上2つの論考は、全3部からなる博士論文の第1部を構成するものであるが、ゾラの美術批評の特徴とその意義を明らかにした点で、ゾラ研究、美術史研究に貢献するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ゾラにおける絵画と文学の問題について、ゾラがボードレールから何を継承したかを考察しているが、もう一人の文学者・美術批評家であるマラルメとゾラの関係も視野に入れることができ、ゾラの美術批評の特徴とその意義を解明することができた。そして、ゾラの小説と絵画に関する以前の研究成果と合わせて、ゾラとマネや印象派の関係を総合的に扱った博士論文を完成させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度に当たる来年度には、今年度に執筆した博士論文をさらに補強し、当初の計画通り研究成果を公表すべく、ゾラと同時代の絵画についての著書の出版に向けて努力していく。
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Research Products
(5 results)