2010 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀スイスの国民統合と知識人の共同体-未公刊資料の文書館調査を手がかりにして
Project/Area Number |
21520334
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
葉柳 和則 長崎大学, 環境科学部, 教授 (70332856)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 靖子 名古屋大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (70262483)
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Keywords | マックス・フリッシュ / ナショナリズム / スイス / 国民国家 / 記憶 / 表象 / フロイト / 表象 |
Research Abstract |
当該年度の研究目的は、20世紀スイスにおける「国民化プロジェクト」と「作家-メディア-批評家のネットワーク」の間に見出される言説の政治の諸相を-とりわけ両者の共生と抗争に焦点を当てて-明らかにするための基礎的データの収集、それに基づく、研究発表、および論文執筆にあった。そのための座標軸を形成するのは、スイスの国民統合の表象の政治をめぐる「マックス・フリッシュ(1911-1991)の言説と行動」、とりわけ1930年代のスイスにおける「精神的国土防衛」運動とフリッシュの言説との関係であった。また同時に、フリッシュや同時代の知識人の言説を分析するための理論的基盤として、フロイトの精神分析における表象の理論についても検討課題となった。まず、フリッシュが1939/40年に発表した従軍日記Blatter aus dem Brotsackにおけるナショナリズムとそれに対する批判的まなざしの形成について論文を執筆した。この成果は『独文学報』第26号に掲載された。さらに、Blatter aus dem Brotsackの先行テクストであり、現行の『著作集』に未収録のTagebuch eines Soldaten(1935)と後続テクストであるBlatter aus dem Brotsack : Neue Folge(1940)の分析を行うことによって、上記の「批判的なまなざし」の形成過程をより明確にした。この成果は西日本ドイツ文学会にて報告(2010年12月)された。プロジェクトの理論的基盤としてのフロイトの表象理論については、18世紀から19世紀における人間科学の中で探究された表象の理論が、フロイトの思想の中に合流していくプロセスを、文献実証学的に明らかにした。この成果は『フロイトという症例「我々の本質の核」もしくはいかなる受動性にもまして受動的な内なるものをめぐる言説の系譜』(松籟社2011)として出版された。
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Research Products
(4 results)