2009 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代のシュルレアリスムにおけるアナキズムと個人主義
Project/Area Number |
21520342
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
永井 敦子 Sophia University, 文学部, 教授 (50217949)
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Keywords | 仏文学 / 思想史 |
Research Abstract |
第一に、初期のシュルレアリストたちが読んだことがわかっている、19世紀末の後期象徴主義作家たちのアナキズム論を分析し、そのシュルレアリストたちへの影響の性質、継承された暴力観の諸相を明らかにした。そして従来の主たるシュルレアリスム研究が、シュルレアリスムのアナキズム酌傾向の主な源集をベルリンやチューリッヒで発生し、パリに伝播した芸術運動、ダダに見ていたのに対して、シュルレアリストのなかには19世紀フランスの象徴主義詩人たちのアナキズム的思考を重要な源泉のひとつとし、ダダをまったく経由せずに自らのアナキズム的思考を独自に発展させていった者たちが存在することを示した。 第二に、1930年代にシュルレアリストたちがコミュニズムとの関係の構築方法に悩み、各自のコミュニズムとの関係のありかたに応じて分裂してゆくなかで、『社会批評』の周辺にいた者たちやジョルジュ・バタイユらの社会学研究会に接近したブルトンなどのシュルレアリストたちが、コミュニズム批判において彼らと共有しえた社会批判の視座を分析した。特にクロード・カーアンのパンフレ『賭けは始まっている』を分析、紹介し、この詩論がどのような論拠によって社会批評と文学批評を両立させえたかを示し、1930年代のシュルレアリスムを理解する上での彼女の思想の重要性を示した。 第三に、1930年代に革命作家芸術家協会に所属しながらその執行部とは対立関係にあったアナキストたちとシュルレアリストたちとの交流を、当時の書簡や雑誌等から明らかにし、フランスでも日本でも今までほとんど問題視されてこなかった彼らの思想や作品を再検討する必要を示した 以上の第一の点と第二の点を主に著書『クロード・カーアン』において論じ、第三の点を2010年1月にフランスのトゥールーズ大学で開催されたジュリアン・グラック生誕100周年記念の学会において論じた。
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