2009 Fiscal Year Annual Research Report
ジャンセニスムとポール・ロワヤル:論争と霊性(1640-1662)
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21520347
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
望月 ゆか Musashi University, 人文学部, 教授 (30350226)
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Keywords | パスカル / ポール・ロワヤル / ジャンセニスム / フランス17世紀 / 霊性神学 |
Research Abstract |
1)アルノーの『頻繁な聖体拝領』の執筆時期、共同執筆の内訳、そして長年不明とされてきた長大な序文の著者がアルノー個人であることを、サン・シラン書簡集他の分析、また本書が失われたポール・ロワヤル黎明期三部作の一部をなしていたという新たな視点から、実証的・文体論的に明らかにした。 2)ポール・ロワヤルの恩寵論と改悛論との間に、あるいはそれと対峙するイエズス会のモリニスムと弛緩した良心例学との間に必然的関連はあるのか。パスカルの『第五プロヴァンシアル』(1656)における肯定的言辞にも関わらず、歴史家たちはストア派的モリニスムと良心例学との倫理的齟齬を根拠に否定的態度を取ってきた。今年度の調査・研究では、パスカルの指摘がポール・ロワヤル霊性の根幹と一致することを示した。ジャンセニウスが恩寵と救霊予定について、いわゆる「ジャンセニスト的」な極度に悲観的教説の他に、ごく穏健な霊性も展開していることはあまり知られていない。『内的人間の改革』(1631)に代表される「ジャンセニウス的」とでもいうべき後者の霊性に属する恩寵論は、実はポール・ロワヤル黎明期の霊性の重要な基礎をなしている。その影響はとくにアルノーの『イエス・キリストへの信仰の必要性』において顕著である。1701年に死後出版されたこの著作は、改悛、信仰、愛を主題とする三部作の一環として本来執筆され、結果的に単独出版された『頻繁な聖体拝領』(1643)と対をなす。これら二著作をジャンセニウス的恩寵論の文脈で比較対照することで、ポール・ロワヤルの恩寵論と改悛論がキリスト論を軸に収斂すること、イエズス会の恩寵論・道徳論批判がその霊性の必然的結果であることが明らかとなった。
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