2010 Fiscal Year Annual Research Report
ジャンセニスムとポール・ロワヤル:論争と霊性(1640-1662)
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21520347
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
望月 ゆか 武蔵大学, 人文学部, 教授 (30350226)
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Keywords | ポール・ロワヤル / ジャンセニスム / パスカル / フランス17世紀 / 霊性神学 |
Research Abstract |
ゲメネ公爵夫人の回心とアルノー『頻繁なる聖体拝領』(1643出)の成立 1)サン・シラン書簡集によれば、『頻繁なる聖体拝領』のきっかけとなったゲメネ公爵夫人の回心は、1639年8月から12月にかけて起こった。2)セメゾン神父の介入と『聖体拝領は頻繁な方がよいか、稀な方がよいか』の執筆は、アルノーによる反論の第一段階が同年10月初めに完成している事実から、1640年夏と推定される。3)ゲメネ夫人に私的に宛てられたこの小品は、当時の霊的指導の権威の一人カルトジオ会士モリナの『司祭指南』第七論をほぼ踏襲したものである。モリナは、聖体拝領にあたり過度の良心の呵責を戒める伝統的トポスを扱っているが、そこにセメゾン神父は弛緩主義的命題を忍ばせた。4)『頻繁』の提唱する赦免前の改俊(聖体拝領の延期)は当時の霊的指導の傾向に反するものだが、アルノーは、セメゾン神父の不用意な発言を効果的に強調すると同時に、初代教会における聖体への聖なる怖れと英雄的改俊の理想を教父の引用により印象的に謳い上げ、篤信家たちの意識の変革を狙った。 ポール・ロワヤルと篤信 1)恩寵と道徳に関するポール・ロワヤルのイエズス会攻撃は、当時の一般的霊的指導/篤信批判という、より大きな文脈で理解する必要がある。2)キリスト教道徳は掟と勧告とに分かれるが、中世以来、キリストの模倣は修道者向けの勧告で、一般の俗信徒は最低限の掟を守れば救霊には十分と考えられてきた。3)ポール・ロワヤルは、初代教会を手本に、すべての信徒がキリストの戒律に服する修道者であると主張し、『頻繁』は賛同と批判それぞれ大きな反響を呼んだ。 発展 セメゾン神父自身に弛緩主義的意図はなかったと考えるのが妥当。最終的に『頻繁』は反イエズス会的ジャンセニスム論争の一環として出版されるが、イエズス会攻撃プロパーの部分は本来どの程度だったのか、篤信批判の文脈から、後世リゴリスムによる『頻繁』史とは距離を置いた更なる検証が必要。
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