2011 Fiscal Year Annual Research Report
ジャンセニスムとポール・ロワヤル:論争と霊性(1640-1662)
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21520347
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
望月 ゆか 武蔵大学, 人文学部, 教授 (30350226)
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Keywords | ジャンセニスム / ポール・ロワヤル / パスカル / フランス17世紀 / 霊性神学 |
Research Abstract |
本年度はポール・ロワヤルの霊性とジャンセニスム論争との違いを明らかにするために、アルノー『頻繁な聖体拝領』(1643)と完全痛改contrition/不完全痛改attrition論争との関連に注目した。サン・シラン投獄の原因となった痛改論は『頻繁』では明示的な形では殆ど論じられていない。後にパスカルが『第十プロヴァンシアル』(1656)で完全痛改必要論の立場からイエズス会良心例学の不完全痛改十分論を真っ向から非難したのとは大きく異なる。 1)4~11月(夏期休暇中は科研費を利用してフランス国立図書館での資料収集)には、スコラ神学における痛改論の歴史を辿った後、『頻繁』が批判するイエズス会セメゾン神父、そして彼が大きく依拠するカルトジオ会士アントワーヌ・ド・モリナの教義を再検討した。その結果、彼らは「道徳弛緩主義=不完全痛改主義者」という通常の公式に当てはまらず、むしろ完全痛改主義的主張を行っていること、この「偽完全痛改主義」とでも呼ぶべき教義が『頻繁な聖体拝領』の隠れた重要な論点であることが導かれた。そこで、とくにモリナの教義について、完全痛改主義に立つ真トマス主義(ルイ・ド・グルナード、聖フランソワ・ド・サルの弟子ジャン=ピエール・カミュら)と比較しつつ読み直しを行った。 2)しかし、12月~3月の研究で『頻繁』の真の敵がボーニー・イエズス会士であることが明らかになった。『プロヴァンシアル』で弛緩した良心例学の代表として断罪されるボーニー神父の名がポール・ロワヤルの著作に登場するのは、1643年の『イエズス会の道徳神学』であるが、実は1640年に執筆が開始された『頻繁』で既に問題になっていたということである。以上のような経緯で本年度は論文をまとめることはできなかったが、この発見を2012年12月バイヨンヌで開かれるシンポジウムで発表すべく3月にエントリーを済ませている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新たに重要な研究書の出版、また文献の読み込みにより、交付申請書作成時には予想していなかった派生テーマ(篤信、トマス神学との関連)を扱う必要が出てきたため。
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Strategy for Future Research Activity |
対象とする時代を1640年~1660年までとしていたが、フランスにおけるジャンセニスム論争がいかに誕生したか、恩寵と道徳(改悛、良心例学)との関係に焦点を絞り、1640年~1645年までに限定する。パスカルの『プロヴァンシアル』(1656-1657)など、後の論争の展開については当然射程に含めるが、初期の問題との関連でのみ扱い、通史的には扱わない。
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