2009 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀後半から20世紀初期のロシアにおける文学生産の場と知覚様式の変容
Project/Area Number |
21520352
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
貝澤 哉 Waseda University, 文学学術院, 教授 (30247267)
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Keywords | ロシア東欧文学 / メディア / 知覚理論 / 文学理論 |
Research Abstract |
本年度は、メディア、知覚理論に関する資料や研究書の収集をおこない、ロシア、欧米日本の研究資料を購入するとともに、おもに20世紀初頭のロシア・フォルマリズムと知覚理論との関係について検討した。 その結果、フォルマリズムと、ヴントやウィリアム・ジェームズ、ベルクソンなどの当時の心理学、知覚・認識理論が、そのターミノロジーや当時の「心理主義」との関係を含めて密接にかかわっていることが検証できた。 とりわけ、20世紀初頭の哲学者ワシーリイ・セゼマンによる直観主義的認識理論が、フォルマリズムにおける言葉そのものの直観的把握に一定の評価をあたえ、この時代の知覚・認識理論一般の問題意識を共有するものと見なしていたことがあきらかになった。 また他方では、ヴント、ウィリアム・ジェームズ、ジーファース、ザランらの心理学や聴覚理論が、フォルマリズムの詩的言語理論の展開にとってきわめて重要な役割をはたしていることもあきらかとなった。 もともと詩的言語論は、未来派詩の超意味言語を正当化するために形成されたものだが、従来説明されてきたのとは異なり、詩的言語はたんなる物理的音声ではなく、あくまで身体器官により発声され聴覚的に知覚されるものとしての音であること、また詩の書字テクストと、それを身体的に発声し朗読したオリジナル・テクストとのあいだにあるギャップが、トィニャーノブによる「記号」「等価物」の概念を生み出し、彼の著書『詩の言語の問題』を貫く大きな枠組みとなっていること、その背景に、ジーファースをはじめとする聴覚フィロロジーの音声知覚研究が存在していることをが解明された。 これらの成果は、すでに埼玉大学、スラブ研究センター等の各種研究会で発表され、原稿もほぼ完成しており、今後論文として発表の予定である。
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