2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520408
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大津 隆広 九州大学, 大学院・言語文化研究院, 准教授 (90253525)
|
Keywords | 照応 / メタ表示 / 手続き / 類似性 / 呼び出し可能性 |
Research Abstract |
関連性理論の観点から考えると、照応プロセスは特別なタイプの飽和であると言える。第一に,照応表現は余分な労力を払うことなく指示対象を同定するため言語的あるいは意味的指図が慣習的に記号化された結束表現である。もう一つの特徴は、照応の解釈に用いられる文脈想定の構築の仕方にある。照応表現の指示対象の同定は、先行発話や物理的環境などの言語的あるいは非言語的情報をもとにして構築される文脈想定に依存している。このプロセスにおいて、聞き手は言語的あるいは非言語的情報の中の指示対象に直接アクセスするのではなく、それらをさらに表示したものの中から指示対象を同定していると考えられる。こうした表示の表示(representation of representation)という認知プロセスは、照応表現の理解がメタ表示(metarepresentation)に依っていることを示すものである。 照応理解の際に聞き手が構築する文脈想定は、低次表示の心的表示に他ならない。したがって、メタ表示された文脈想定の呼び出し可能性は、それが構築される容易さあるいは難しさ、つまり2つの表示の間の類似性の度合いと関係がある。類似性の度合いは、統語的省略のような照応表現では形式上の類似性が高いために、メタ表示的想定の呼び出しが容易であるが、"do it"照応のように含意を介してでしか2つの想定の間の類似性が認知できない場合にはそれが難しい。 低次表示とそのメタ表示の間の類似性は、余分な労力を払わずに照応プロセスを促進させるものである。メタ言語的類似性や解釈的類似性に頼る認知プロセスは、関連性の見込みを満たすものであろう。そうした照応表現が行なう発話解釈の指図を考えると、照応表現が記号化する意味はまさに手続き的だと言える。したがって、照応表現の手続き的意味は「低次表示の心的メタ表示の中から、照応形の言語的特徴と一致する指示対象を探せ」のように定義できるであろう。
|
Research Products
(2 results)