2009 Fiscal Year Annual Research Report
ソ連崩壊後の中央アジア諸国における言語動態に関する調査研究
Project/Area Number |
21520427
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
臼山 利信 University of Tsukuba, 大学院・人文社会科学研究科, 准教授 (50323225)
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Keywords | ソ連崩壊 / 中央アジア / 言語動態 / ロシア語 / 国家語 / グローカル化 |
Research Abstract |
ソ連崩壊(1991)を契機とするロシア語の社会的機能域の縮小は,ロシア連邦を除く他の旧ソ連地域において顕著である。本研究プロジェクトの主たる目的は,特に中央アジア諸国を研究対象として言語動態という観点からロシア語と国家語(基幹民族語)の機能的転換過程を究明することである。 平成21年度は,ウズベキスタン共和国のタシケントにおいて20~40代のロシア系住民5人を対象に対面式の詳細かつ丁寧な聞き取り調査を実施した(多数の被験者に対するアンケート調査の実施は国内の政治的な事情から大事を取って今回は断念した)。その結果,ソ連崩壊後に学校教育を受けた20代のロシア人系住民の被験者において国家語のウズベク語に対する認識がソ連時代と比べ明らかに変化して来ている様子が明らかになった。具体的には,社会的成功を望まなければロシア語だけで生きてはいけるが,ウズベク国民として社会で成功するためにはウズベク語の習得が不可欠という意識を持ち,実際にウズベク語の習得に努めている実態が浮き彫りになった。ソ連時代に学校教育を受けた40代のロシア系住民の被験者は,国内のウズベク民族主義の高まりやウズベク語使用の優勢化傾向の中での不便さを日々実感しているが,年齢その他の理由からウズベク語習得を志向するまでには至っていない。 また,報告者によるタジキスタンの言語状況に関するこれまでの調査資料を考察した結果,ソ連時代の閉じた静態的な言語秩序(上位言語:ロシア語,中位言語:タジク語,下位言語:その他の言語)が解体され,開かれた新しい動態的な言語秩序の形成(上位言語:タジク語,準上位言語:ロシア語,中位言語:英語,準中位言語:アラビア語・中国語,下位言語:ウズベク語及びその他の言語)が進行し,グローバルな言語秩序における言語動向とローカルな秩序における言語動向が併存する言語状況のグローカル化が生じていることが判明した。 さらに,在豪ロシア系住民のロシア語の保持と消失のメカニズム(継続的な言語保持ファクターの存在と作用)が中央アジア諸国における今後のロシア語の存在様態を考える上で非常に参考になることがわかった。 以上の成果は,2回の国際学術会議(カザフ国立大学,オーストラリア国立大学)で口頭発表し,日本スラヴ人文学会の学会誌に掲載された。
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