2011 Fiscal Year Annual Research Report
ソ連崩壊後の中央アジア諸国における言語動態に関する調査研究
Project/Area Number |
21520427
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
臼山 利信 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (50323225)
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Keywords | ソ連崩壊 / 中央アジア / 言語動態 / ロシア語 / 国家語 / グローカル / ルソフォニー |
Research Abstract |
ソ連崩壊(1991)を契機とするロシア語の社会的機能域の縮小は,ロシア連邦を除く他の旧ソ連地域において顕著である。本研究プロジェクトの主たる目的は,特に中央アジア諸国を研究対象として言語動態という観点からロシア語と国家語(基幹民族語)の機能的転換過程を究明することである。 平成23年度は3年間の研究活動を総括し,補足的な調査としてキルギスでロシア系住民3名,ウクライナ系住民1名,アゼルバイジャン系1名を対象に言語使用・意識などに関する項目について対面式の聴き取り調査を行った。 結論として判明したことは,(1)ロシア人を中心とする多民族共生社会の崩壊,(2)国家民族主義に基づく言語政策の推進による国家語(基幹民族語)使用の実質化とロシア語の第二言語化,(3)「基幹民族」「国家語」「イスラム教」の三位一体的価値観の普及,(4)(ロシア系住民を含む)非基幹民族に対する社会的同化圧力の形成,(5)社会のグローカルパラダイムへの移行(ローカルな秩序とグローバルな秩序の共存状態への社会的対応)に伴う国家語・ロシア語・英語の3言語中心の言語教育を志向する新しい言語教育観の形成,の5つである。 中央アジアでは,ロシア系住民の比率が年々低下し続けているものの,ソヴィエト時代に初等・中等・高等教育を受けた30代後半以上の世代のロシア語運用能力は健在であり,「ルソフォニー(ロシア語圏)」が依然として維持されている。しかしながら,ソ連時代の教育経験がほとんどない,あるいは全くない30代半ば以下の若い世代のロシア語運用能力の相対的低下は顕著で,基幹民族語とロシア語の良質なバイリンガル人口の比率が確実に下がっている。そして,歯止めのかからないロシア系住民の人口流出により,残されたロシア系住民の社会における民族的孤立化,ディアスポラ化が進んでいる。 以上の研究成果は,3回の国際会議(上海外国語大学,高麗大学,サマルカンド国立外国語大学)において口頭発表し,論文・報告集等に掲載された。
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