2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21520656
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
胡 潔 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (30313399)
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Keywords | 文化交流史 / 比較家族史 / 法制史 / 個人所有 / 相続 / 父系 / 母系 / 後見 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に行った日唐律令制度の比較研究に続き、平安・鎌倉時代の古文書、古記録を中心に家族のあり方についての調査を行った。主に(1)居住規制、(2)相続・所有形態、(3)後見関係の三つの問題を念頭に調査を進めた。平安時代から鎌倉時代にかけて移行する歴史の中で居住形態が絶えず変化していたが、結婚開始時に男性が女性のもとへ移行すること(男性婚出)、生まれた子どもが母方に育つこと(母方養育)、夫婦別産制をとること(夫婦別産)などの共通点が長期間を通じて観察された。これらの慣行は、実生活面での父子兄弟の同居共産体の形成を不可能にした害方、個人を中心とした人的ネットワークの構築に大きく寄与した、という認識に至った。古代日本の所有形態は家族共有制ではなく、個人所有制であったことは従来の研究によって指摘されているが、その性格に関する研究は比較的に手薄である。個人所有は完結した経営体を意味しておらず、家政機関の経営・管理または家族、親族の後見によって補完され、遂行される性質を持っていることを、たくさんの史実例から確認できる。問題はこのような個人を中心とした人的ネットワークの形成の仕方、機能及び家族・親類との関わり方で、今後さらに詳細に考察する必要があると感じた。後見に関しては従来言及が少なく、文学作品の後見関係に関する記述以外、未だ正面から取り上げる研究を見ない。しかし、後見関係は当時の居住形態に規定される部分が多く、古代日本社会の人間関係を理解する上で欠かせない視点である。貴族層においても、母縁、妻縁、娘縁による後見のネットワークの存在が観察される。調査分析の害部分として「平安時代の「後見」に関する一考察」という論文を公表した。後見の基本構造-婿取婚との関連性、後見の段階性と多層性、後見の活動的性格、後見の公私両面性について記述し、特に後見関係における女性の中継的役割に関する指摘は、当時の人間関係の研究に新たな視点を導入したと考える。
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